約 1,406,389 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/410.html
戻る TOPへ 次へ ツガル戦術論-副題 シルヴィア地獄激闘編(上) 地区大会で優勝を収めたおれ達は、次の大会開催までの一週間を利用してトレーニングに励んでいた。 家からあまり離れていない行きつけのセンターには、始めたばかりの初心者から、ファーストリーグで鳴らしている猛者など幅広いユーザーが集まっており、戦術研究の場としては打って付けだった。卓上で考案した戦略が初心者に通用しても、上級者には通用しない。というのは勿論の事だが、その逆のケースも存在するのだから面白い。 最良の上達方法が実戦というのはどんな世界でも変わらないのだ。 前大会で披露した、中距離攻撃力が低いと言う欠点を逆に利用する戦術に対してやはり対策が立てられており、腕のある神姫とのバトルではこちらが劣勢。贔屓目に見て五分の勝負に持ち込まれる事となった。対策に対する対策が必要だ。が、さりとて、そんなに早く新戦術が思い付くわけでも無い。 だからこそ、既存の戦術を煮詰め、新たなコンボを編み出そうとセンターで連戦を続けているのであった。 コンボとは? 攻撃とは多くの場合、ひとつの武器から放たれる一撃で完結するものでは無い。単一武器による連続攻撃。異なる性質を持った複数武器による連続または同時攻撃。機動しながらの攻撃。回避機動及び防御行動からの反撃。さらに体術を含む近接武器による格闘との連携。等など。 例えばハンドガン一丁をあなたの武装に追加しただけで、これだけ攻撃パターンが増えるのである。 武装を増やすと言うのはつまり火力の増加のみに留まらず、相手に対して取れる戦術が増える。攻撃力と手数の二重の増加、則ち戦力の上昇に繋がると言うわけだ。それを理解せずにカタログスペックだけを見て武器を扱えば、その「武器に使われる」事となる。各武器の特性を理解し、自らの思い描いた戦術にマッチした装備の組み合わせを探し出すのが重要だ。 武装とはマスターと神姫にとってアイデンティティ。 武装とは、自らの技術と経験と信念に基づいて選択すべきものである。 さて、神姫の武装やオプションが徐々に増加しているにも関わらず、未だに格闘武器のみというスタイルが根強く残っているが、それは本人らが意識してる、してないに関わらず上記の理由が大きいだろう。 剣しか装備してなければ、その剣を活用せざるを得ない。言い換えれば、剣の性能を100%引き出す事に繋がるのだ。もしこの神姫がどんな間合いでも一瞬で詰められる機動力があれば、剣以外の武器を持たぬ彼女は迷いなく敵を一刀で切り伏せようとするだろう。 余計な事を考える必要が無いというのは、ここ一番の場面では大いに強みになる。 さらに彼女の剣が片手で扱えるものならば、無限の用途を備えた武器である「左腕」を攻撃に組み込める。叩く、払う、掴む、捩る、投げる、防ぐ。左腕と剣によるコンビネーションは近接格闘戦において無限のコンボを派生させ、剣が本来持つ戦術的効果を上回る性能を発揮させるだろう。もちろん両手持ちの剣を扱ってもその性質はほとんど変わらない。刀身で斬る、切っ先で突く、刀を返し薙ぎ払う、柄で殴る、峰で叩く。射撃武器と違い、たった一つの武装で無限の攻撃パターンを繰り出せるのが格闘武器の利点の一つだ。 だがこれは、使用者の技量と武器の性能が直接的に結びついているとも言えて、使用者の鍛錬が無ければ威力を発揮しない、という欠点も孕んでいる。だがそれ以上に、ただの物質であるはずの格闘武器が使い手とともに千差万別 変幻自在に身を翻し、激しい攻撃をぶつけ合う格闘戦のダイナミズムは多くの人を虜にする。 この先、いかに射撃武器が充実していこうとも、多くの神姫達は格闘武器を手放さないだろう。 少し話しがずれた。閑話代休。 私の主張するところとは、つまり。 神姫の装備に対しての熟練度は、確実に戦力として加算されると言う点だ。 先日行われたセカンドリーグ同士のフリーバトルにて、巡航射撃型のアーンヴァルタイプが軽量格闘型のハウリンタイプに肉薄された際、巨大なレーザーライフルの銃身を叩き付けて迎撃した件は記憶に新しい。バトル後の勝者アーンヴァルの発言は興味深いものだった。「いつも抱えて飛んでましたから、体が自然に動きました」 この件はいささかイレギュラーな形での運用ではあるが、体に馴染んだ武装と言うのは意識せずとも自然に戦術に組み込まれる。 これを偶然拾った僥倖と判断するか、必然で勝ち得た勝利と判断するかで、あなたの神姫プレイヤーとしての性格が問われる。 さて、格闘武器のカテゴリであるにも関わらず剣や槍などの武器とは在り方が大きく異なる武器がある。 則ちパイルバンカーやドリルアーム等といった機械式格闘武器である。 これらは通常の格闘武器と比較してあまりにも高い破壊力と、それに反比例する低すぎる汎用性を持つ。火薬を炸裂させ、その爆発力を最大限運動エネルギーに変換し装甲を貫くパイルバンカーは、貫くというワンアクションしか起こせない。逆に言えばワンアクションに特化した機構が化け物的貫通力を生み出すのだ。玄人向けと言われる所以である。そしてこれらの性能をフルに引き出すためには武器に対する熟練度や鍛錬よりも、経験が占めるウェイトが大きい。連射が利かず突くしか出来ないパイルバンカーは、「単一武器による連携」が行えない。よって培われた経験に裏付けされた判断力で――― 対戦フロアの隅にて、モバイルのテキストに新たな戦術論の草案を書き初めてからどれくらい経ったのだろう。 「―――マスター、もしもし、マスター? 大変。とうとうウチのマスターの聴覚器官が水平線しちゃったのね」 シルヴィアに課題を出して連戦させてるうちにマスターである自分は新戦術を完成させ、パートナーのバックアップを図ろうと思っていた。が、 「どうしましょう。とりあえず、帰りにささげと重曹、もち米を買わなくてはいけないわ」 どうやら自分は作業に没頭していたようで、連戦を終えたシルヴィアの呼びかけも聞こえてなかったらしい。 「赤飯でも炊こうってか。めでたくも無いのに赤飯を炊きたがるグルメ神姫を持つと無駄に出費がかさんで辛いぜ」 「あら、赤飯は嫌い? めでたくなくても炊きたくなる、私をそそらせる何かがお赤飯にはあるのよ」 「話を逸らすなよ。誰の耳が聞こえなくなるとめでたいって?」 「赤飯が耳の病気に効くってお隣のお宅のおば様が言ってた」 「そりゃお前、赤飯を食べて邪気を払おうって意味じゃないか」 「じゃあマスターの耳に取り付いた邪気をさっさと追い払いましょう。と言うわけで今夜は赤飯がいいわ」 うちのシルヴィアは少し呼びかけに応じないだけでこんな感じになる。 自分が作業に没頭しやすい性質も手伝って最近はしばしば、夕食が無駄に豪華気味になるなのは間違いなくシルヴィアが原因。豪華なのは良い事だが、エンゲル係数の地味な上昇はおれの財布を直撃する。 赤飯は次回の大会で優勝したらな。と手早く話題を切り替える。 「さて、バトルの成績はどうだった」 「マスターの指示が無い点を踏まえ贔屓目に見て五分ってところ。対策の早いところはバッチリ予習してるみたい」 うむむ、と息を漏らすシルヴィア。 対ツガル…ひいては対シルヴィア対策をとっている神姫が多数いる。それはつまりおれ達の優勝によって引き起こされたショックウェーブの規模を物語っている。自分達の行動に対して明確なリアクションが帰ってきた事におれ達は多少の満足を覚えていた。だが同時に、早く手を打たなければいけないと言う焦りも出てきている。大会開催まであと四日を切ってた。その期間で新戦術を確立出来るだろうか。ううむ。 「純正ツガルタイプの戦術論を書いていたんじゃないの?」 調子が悪いときは何をやっても悪く転ぶものだ、今日のところは切り上げて戦闘データから戦術を見直してみよう。と言う意思を伝えるよりも早く、シルヴィアはモバイルの画面を覗き込んでいた。 「剣だのパイルバンカーだの、こんな文章書いちゃって…。やっぱり、いつまでもデフォルト装備では通用しないと思ってるのかしらん、マスター?」 それは途中から本題を外れ、無意識のうちにタイプしていた文章だったが、指摘されてみれば確かに自分の焦りを明文化したようでもあった。 おれ達はツガルタイプが隠し持つ高い性能を証明するために、デフォルト武装に拘り戦闘を続けてきたのだ。だがしかし。 「弱気になってる気がする。こんな状況に対して覚悟は決めてるはずだった。でも、今までは回りに注目されてなかったから勝ち上がれただけで、注目されればこの程度の戦績しか残せないのがおれ達だったのか、って」 「まったく、うちのマスターが、聞いて呆れるような事を」 まったくだ。見事にどつぼにはまってしまっている。 やはり今日のところはさっさと切り上げてしまおう。と帰り支度をした矢先、その男は現れた。 「あなたですね。ツガルタイプのシルヴィア。先日の大会で優勝なさった」 続く 戻る TOPへ 次へ
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/6564.html
autolink() DC/W23-P04 カード名:キミと一緒に 立夏 カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:2 コスト:2 トリガー:1 パワー:8500 ソウル:1 特徴:《新聞》?・《生徒会》? 【永】前列の中央の枠にこのカードがいるなら、このカードのパワーを+1000。 じゃ、一緒に聴いてみない? レアリティ:PR illust. コミックス「しよ子といっしょ」2巻初回製造封入特典
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/439.html
「はぁ・・・はぁ・・・何で電話に出てくれないの・・・!!」 私は今にも泣きそうな表情で走っていた。目指す場所は私達の家だ。 「お願い・・・電話に出てよ・・・唯!!」 唯の身に何かあったんじゃないか・・・そう思うと、私は胸が張り裂けそうな思いになった。 ―――――――――― 今年、私は大学生になった。 「私・・・唯先輩の事がずっと好きでした!私、唯先輩から離れたくないです!!・・・ずっと、一緒に居たいです・・・」 「・・・私も大好きだよ。だから、あずにゃんも同じ大学においでよ! 私、待ってるからさ!」 唯先輩と離れるのがどうしても辛くて・・・思い切って告白した。唯先輩はいつものように優しい表情で私にそう言ってくれた。 だから、大学で唯先輩と再開した時は、嬉しくて嬉しくて・・・思わず抱きついてしまった。そう、高校の時に、唯先輩が私にしていたように・・・。 1年振りに見た唯先輩は、とても大人っぽくなっていて、私は惚れ直していた。 「1年前の約束・・・私守りました。唯先輩と一緒に居たいから、この大学にしました!」 「私も待ってたよ・・・。この1年、梓と一緒に居られなくて寂しかったよ」 「梓って・・・/// 今まで、あずにゃんって呼ばれてたから、何だか逆に恥ずかしいですね」 「えへへ、私は逆にあずにゃんって呼ぶのが恥ずかしくなっちゃったよ。呼び出しっぺは私なのにねっ」 唯先輩が恥ずかしがるなんて・・・やっぱり、1年という時間は人を成長させていくみたいだ。 唯先輩と過ごす時間はいつも楽しくて、すぐに過ぎてしまう。これは高校の時から変わらない。 「あ、もうこんな時間ですね・・・」 「ホントだ・・・。そうだ、梓・・・今晩、私の家で夕飯食べない? 一人暮らしを始めたばっかりで、まだ寂しいんだよね~」 「い、良いんですか?」 唯先輩は、憂が高校を卒業するのと同時に、一人暮らしを始めた。 両親がよく家を空ける事情から、高校生の憂を一人にはさせられないということで、大学1年の時は実家から大学に通っていた。 しかし、唯先輩が大学に通うにつれ、高校の時よりも見違えるくらいに自立した事で、憂も一人暮らしを認めたようだ。 それでも相変わらず、唯先輩よりも憂の方がしっかりしているけれど・・・。ちなみに、憂は私達とは違う大学に通うことになった。 「これは・・・」 私は、唯先輩の部屋で1枚の写真を見つけた。大人っぽくなってはいるけれど・・・見覚えのある顔だ。 「へへっ、澪ちゃん達だよ!私達、大学は違うけれど、外バンを組んで、今でも放課後ティータイムとしてバンドを続けてるの」 「皆さん、元気ですか?」 「も~、相変わらずだよ!4人で居ると、高校の気分に戻れるんだよね!」 「・・・やっぱり、皆さんと一緒だと楽しそうですね。・・・ギター、1人募集してますか?」 「梓の席は予約済みだよ♪」 「あ、ありがとうございます///」 久しぶりに放課後ティータイム5人でバンドが組める・・・そう考えるだけでワクワクしてきた。 「唯先輩、ちゃんと自炊もできてるんですね!昔は憂に頼りっぱなしでダメダメだったのに」 「まぁね♪・・・って、酷いなぁ~。私も成長したんだよっ!」 私は、キッチンで料理を作る唯先輩の後ろ姿を見ていた。正直、初めて見る光景で、新鮮な感じがする。 「1年の月日って、あっという間に過ぎるけど、人も大きく成長しちゃうんですね」 「そうだね~。・・・梓も、久しぶりに見た時はちょっと大人っぽくなってて、ビックリしちゃったよ♪」 「そ、そんな・・・唯先輩の方が大人っぽくなってて・・・ドキッとしちゃいました・・・///」 「まぁ、梓は可愛さも倍増だけどね♪・・・いや、3倍増かな!?」 「な、何言ってるんですか!/// そんな事ないですよぉ///」 「照れてる姿も可愛いよ?」 「もう・・・/// その辺は、唯先輩は変わってないですね・・・」 高校の時と同じやりとり・・・。だけど、久しぶりに言われるとやっぱり恥ずかしいものだ。 私は照れながらも口元が緩んでしまった。そんな表情を見ながら、唯先輩はニコッと笑っていた。 「今日はご馳走様でした。唯先輩の手料理、美味しかったです♪」 「本当?こんな物で良ければ、いつでも作るよ!」 「・・・そんな事言って、調子に乗らないでくださいよ~?昔、マシュマロ豆乳鍋とかチョコカレー鍋を作ろうとしてましたし・・・」 「そ、それは・・・若さ故の過ちということで・・・」 唯先輩は、照れた表情で私を見ていた。大人っぽくはなったけど・・・こういう表情は、高校の時と変わらず、やっぱり可愛い。 「時間も遅くなりましたし・・・そろそろ帰らせていただきますね」 時計はもう夜の10時を過ぎていた。 唯先輩の家から私の家までは1時間程かかるが、夕飯はご馳走になったし、帰ってもお風呂に入って寝るだけだ。 「ねぇ、梓・・・」 「何ですか?」 唯先輩から、さっきまでの可愛らしい表情が消えていた。また大人に戻ったような・・・真剣な表情だった。 「私・・・梓から離れたくない・・・」 「えっ・・・///」 その言葉を聞いた時、唯先輩の卒業式を思い出した。 私もその時、唯先輩から離れたくないと・・・今の唯先輩と同じ事を言っていた。 あの時の私は、離れる事が寂しくて、泣きながら想いを伝えていたっけ・・・。 思い出すと恥ずかしいけれど、今の唯先輩みたいに、カッコいい表情ではなかった。 「ギュッ」 「ゆ、唯先輩・・・?///」 私は力強く抱きしめられた。こんな感覚は初めてだった。 高校の時にも、唯先輩からはよく抱きつかれていたけど、あの時は優しく抱いてくれていた。 同じ抱かれるでも、今までとは違う感覚・・・でも、安心できる感覚は同じだった。 「久しぶりに梓に会えて・・・感情を抑えようと思ったんだけど・・・やっぱりダメみたい」 「唯先輩・・・」 唯先輩は、私の耳元でそっと囁いた。私を完全に陥落させる言葉・・・。 私は唯先輩に身を委ね、彼女からの言葉を受け入れていた。 「好きだよ、梓・・・」 「私も・・・好きです・・・」 それから間もなく、私は彼女の家に住むことになった。友達には先輩とルームシェアをしていると言うが、勿論それだけの関係ではない。 「おはよう、梓♪」 「お、おはよう、唯///」 「その呼び方、慣れてきたね」 「ま、まだ慣れないよぉ///」 恋人同士になった今、何の遠慮もいらないから、私の事は唯って呼んでと言われて数日・・・まだ照れの方が強くて、この呼び方に慣れていない。 だけど、今まであった先輩と後輩という壁を崩せた事に私は幸せを感じていた。 「あ~ずさっ・・・んー♪」 「もう・・・唯ったら・・・甘えん坊なんだから」 そう言いつつも、私は唯のおねだりに応える。朝の至福の瞬間だ。 「えへへ、ご馳走様♪」 「唯だけずるいよぉ」 「じゃあ・・・私からも・・・」 そう言うと、唯は嬉しそうに私にキスしてくれた。 朝から唯の愛を感じられる・・・何て幸せなんだろう。 私達は毎朝一緒に登校し、一緒に下校する。 さすがに受ける授業は違うけれど、時間が合えば大学でも一緒の時間を過ごしている。 「梓・・・私達、ずっと一緒に居ようね♪」 「勿論だよ!ずっと、一緒・・・だよ///」 そんな中、私にとって決して忘れられない出来事が起きた。 それは普段と変わらない1日・・・だったが、唯の最後の講義が臨時休講になった。 それだったら、私も休んで一緒に・・・と思ったが、私の方は必修科目だった為に休めなかった。 今日は近所のスーパーの特売日という事で、唯が先に帰って買い物を済ます事になった。 「さてと、私も講義が終わったから帰ろうかな。帰って、唯と夕飯の準備をしなくちゃ・・・」 講義が終わった事を唯にメールする。すると、1分と経たないうちに唯からメールが届いた。 「唯からだ。返事早いなぁ・・・『早く!』?」 メールの題名は『早く!』・・・題名からでは、何があったのかはわからなかった。 「・・・何?どうしたの?」 私は、メールを恐る恐る読む。 『早く!梓、帰ってき』 これが私に届いたメールだった。文章が途中なのに送信されている。何か、切羽詰まったような感じの文章だ。 何が起きているのかわからなかったが、唯の身に何かあったのではないか・・・そう感じた私は居ても立っても居られず、講義室を飛び出していた。 「そうだ、電話してみよう!」 何度も聞こえるコール音・・・しかし、何度かけても、唯の声を聞くことはできなかった。 「お願い・・・電話に出てよ・・・唯!!」 私の必死の思いは届く事なく、唯の声を聞く前に家に着いた。 私がドアノブに手をかけると、すぐにドアが開いた。どうやら、鍵もかかっていなかったようだ。 しかし、今の私にとってそれはどうでも良い事だった。ただ、唯が何事もなければ・・・。 「唯ー!!」 私の叫び声が部屋中に空しく響いた。唯のケータイは、先ほど買ってきたであろう夕飯の材料と共にテーブルに置かれたままだった。 彼女のケータイには、着信が20件以上残っている。気付かないうちに、私はそんなに電話をかけていたんだ・・・。 「唯・・・唯ぃ・・・どこなのぉ・・・」 私は家中を探し回った。ただ、唯会いたくて・・・必死に探した。 『なーんだ、見つかっちゃった。さすが梓だね』そんな子供のようなかくれんぼでも良い・・・。 風呂場、トイレ、クローゼット・・・いたる所を探し回った。しかし、そこに唯の姿はなかった。 「唯ぃ・・・お願い、戻ってきてぇ・・・」 止め処もなく流れてくる涙・・・これだけ泣いたのは何時以来だろう・・・。 愛する人が居ない・・・探しても探しても居ない・・・。愛する人に会えないって、こんなに辛いものなんだ・・・。 「唯・・・唯・・・唯ぃ・・・」 私は何度も何度も、その人の名前を呟いた。この名前を呟いていないと、本当にこのまま会えなくなってしまう気がして・・・。 だけど・・・そんな私の不安を吹き飛ばす声が聞こえてきた。 「・・・だ~れだ♪」 不意に遮られた視線。急に目の前が真っ暗になったけれど・・・私の目に覆いかぶさる感触はとても温かかった。 「ゆ・・・い・・・?」 「当ったり~♪」 どうしても聞きたかった、あなたの声・・・。どんなにコール音を鳴らしても出てくれなかった、あなたの声・・・。 今、私の耳元でしっかり聞こえる・・・。 「唯・・・」 私は、もう一度名前を呟いて、唯に体を預けた。泣いている姿を見られたくなくて・・・。 「あ、梓・・・!?泣いてるの?」 「あんなメール送っておいて・・・どれだけ心配したか・・・」 「・・・あ、その・・・ゴメン・・・」 「今は・・・唯から離れたくないの・・・私の事、強く抱きしめてよ・・・」 色々言いたい事はあった。だけど、ひとまずその想いをしまいこんで、唯の温かいぬくもりを感じていたかった。 それに・・・唯に何事も無くて本当に良かった・・・。 「あのー・・・お取り込み中悪いんだけど・・・」 「たのもぉー・・・」 「あらあら・・・久しぶりに良い物を見させてもらいましたわ♪」 何だろう、この聞き覚えのある声・・・。何だか懐かしい声が聞こえる・・・。 あれ?この部屋、私と唯の二人だけじゃないの・・・? 私はゆっくりと顔を上げた。すると、唯の後ろに女性が3人・・・3人の女性が・・・居る!? 「ふぇ!?・・・あっ・・・み、澪先輩と律先輩、ムギ先輩!?・・・ど、どうしてここに!?」 私は状況が理解できなかった。大人っぽくなった3人と久しぶりに会えた事に、嬉しさよりも驚きの方が大きかった。 「梓を驚かせようと思って、澪ちゃんとりっちゃん、ムギちゃんを呼んでたの。5人での放課後ティータイムの再結成を祝してね♪」 「それなのに、唯・・・家にケータイを忘れて、どこに行ってたんだっけ?」 「近所に美味しいたい焼き屋さんがオープンしてたから、そこに・・・。だって、梓がたい焼き好きだし、どうしても食べさせたくて・・・」 「ほ~ぉ、私達をほったらかしでかい?私も澪もムギも、何度も電話したのに、なかなか出なくて・・・心配したんだけど~?」 「うぅ、りっちゃん・・・ゴメンなさいぃ・・・」 「くすっ♪」 唯と律先輩のやりとりを見ていると、ふと昔の軽音部を思い出した。 あんなやり取りが普通だったけど、先輩達が卒業して、もう見られないと思っていた。 だけど大学生になって、再度放課後ティータイムのメンバーになれるかと思うと嬉しかった。 というか、唯のケータイに着信があんなにあったのは、皆も電話してたからなんだ。 「でも梓・・・悪いなと思いつつ、一部始終見ちゃったんだけど、何で泣いてたの?」 「そ、それは・・・唯が、あんなメール送ってくるから・・・心配しちゃって・・・」 「メール?」 私は、澪先輩に問題のメールを見せた。 「うん、確かに梓だけじゃなく、皆心配させる内容だな、これは」 「本当は、澪ちゃん達に送る内容だったけど、間違えて梓に送っちゃった・・・」 「しかも文章の途中だし、私達にはメール届いてないし。まったく・・・高校の時とあまり変わってないんじゃないか?」 「うぅ、澪ちゃん・・・ゴメンなさいぃ・・・」 どうやら、ちゃんとしたメールは澪先輩達に送る物だったらしい。 『早く!梓、帰ってきちゃうよ~!皆、あとどれくらいで来れそう?』 だけど、メールを打ってる途中、近所に出来たたい焼き屋さんがテレビで紹介されているのを見て、慌てて外に出たみたい。 文章の途中でメール送るし、送る相手は間違えるし、鍵はかけないし、ケータイは忘れるし・・・。 何だか、急に高校生に戻ったような気分だったけど・・・でも、私の為に買ってきてくれたと思うと・・・とっても嬉しかった/// 「梓ちゃん、唯ちゃんの事は名前で呼んでるのね♪」 「はい・・・あの、恥ずかしいんですけど・・・私達、恋人になったので・・・///」 「唯ちゃんから、そんな話聞いてなかったから、ビックリしちゃった~♪」 「だってぇ~・・・何か恥ずかしくて・・・」 「言ってくれれば、今日はお祝いしたのにな~♪・・・言ってくれれば良かったのに~♪」 「うぅ、ムギちゃん・・・ゴメンなさいぃ・・・」 「唯、皆さんに謝ってるね・・・」 近いうちに、ちゃんとした形で再会する事で、今日はお開きになった。 ギー太とむったんの久々の共演も近そうだ。 「梓、あーん♪」 「あーん・・・///」 「たい焼き、美味しい?」 「うん・・・で、でも、こんなんじゃ許さないんだからぁ!」 「ゴメン~・・・許して?」 「もう・・・高校生の時みたいに抱きついてきても、そんな簡単には許さないもん///」 「よしよし♪」 「そんな、頭を撫でてきたって・・・///」 「大学の近くに、美味しいケーキ屋さんができたんだって!明日、一緒に食べに行こうよ♪梓の好きなバナナケーキもあるってさっ!」 「もう・・・私の好きな物で釣るなんて・・・ずるいよぉ・・・。それに、私の1番好きな物・・・」 まだ私が喋ってるのに・・・。その唇を奪うなんて・・・。 こんな事、唯だから許せるんだからね・・・? 私の事を全てお見通しの唯だから許せるんだよ? 「1番好きな物が・・・何だって?///」 「・・・唯には敵わないなぁ。でも、今日は本当に心配したんだからね・・・。私を安心させる言葉・・・言ってほしいな///」 ―――もう心配させないよ、とか、これからは梓から離れないからね、とか・・・。私はそんな単純な言葉でも良かった。 唯から聞ける言葉なら、何でも良かった。唯の言葉なら、何でも安心できるのに。 「ずっと梓を守っていくよ・・・だから・・・結婚してください・・・」 私に選択肢を一つしか与えてくれないなんて・・・やっぱりずるいよ、唯・・・。 「よろしく・・・お願い・・・します///」 私はまた泣いてしまった。今度は、寂しくて、じゃなくて嬉しくて、だけどね。 「・・・泣いてばっかりだと、可愛い顔が台無しだよ?」 「もう、誰のせいだと思ってるの・・・」 私達はまた口づけをした。いつもよりも、今までよりもずっと深く・・・愛を確かめるように・・・。 私達の未来が見えた日。 ずっと一緒に居ようと誓い合った日。 今日は忘れられない日になった。 終わり まったく忘れられないなよ。いやでも忘れないな。(いやじゃないけど。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-19 23 55 17 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1254.html
ずっと一緒に 人間とゆっくりの寿命の違いを例えるなら、時計の短針と長針のようなものだ、つまり片方はもう片方をおいてすぐに一周してしまう。 人間がゆっくりと年をとっていくのと反対に、彼らは人間と比べるとずっと早くあの世に旅立ってしまう。 短くて三年長くても六年というのがゆっくりの寿命、野良だった期間があるゆっくりの寿命はさらに短くなる。 つまり虐待するには十分な時間をゆっくりは生きる、しかし可愛がる人にはゆっくりの寿命は短すぎるというのがゆっくりのペットとしての問題なんだ。 もしも寿命を長くする方法があるならば可愛がる人はきっとそれを試してみる、金を払って大好きなゆっくりとずっと一緒にいられるとなれば必ず試すだろう、実際にみんなそうだ。 俺の働いている会社ではそんなゆっくりユーザーにサービスを提供して、サービス相応の報酬を頂いている、今日も飼いゆっくりと少しでも長くいたいお客さんが来てくれた。 ゆーめい!(あなたとゆっくりのしあわせ~をまもりまっせ¥)株式会社は金さえ持っていれば野良ゆっくりの依頼も受ける優良企業だ、安心してお金をよこしてね!逆に金持ってねえなら帰れ。 そんな気持ちで俺は心をこめた接客をする、客の悩みを共有し一緒に泣き笑う、それが信頼を生み最終的にもらえる諭吉さんの人数を増やすことに繋がるのだ、うふふ。 その日のお客様は四十代の主婦の方だった、隣町からケージに入れられたゆっくりれいむのゆーめい!(延命)手術を受けにやってきてくれたと思うとゴマすりにも気合が入る。 遠いところからごくろうさまです、美しい奥様だ、ゆっくりれいむもとてもゆっくりしていますね、ささお茶でも飲んでください。 客を褒めゆっくりを褒め、事情を聴き気の利いた事を言う、場面によっては笑顔を崩ししんみりと客の話に聞き入る。 客の言いたいことを全部言わせてすっきりしてもらっと所で早速ゆっくりれいむを預かる、ただの饅頭じゃねぇ給料袋だと思って優しく慎重に押し戴く。 「ありがとうございました!!お気をつけて!!」 飼い主をビルの外まで見送る、さてここからが俺のお気に入りの仕事の始まりだ。 預かったゆっくりれいむをケージから出してまず最初にやることは痛ーい注射だ。 老いや病でぐったりとしたゆっくりでもこいつを食らえば良い声で鳴いてくれる。 「ゆびゅ!!いだいぃい!!!」 れいむはつむじのあたりに針を入れられて悲鳴をあげるが、注射器の中身、即効性の睡眠薬を注入すると押し黙り眠る、持続力が高いそれを打たれればゆっくりは丸二日は起きない。 俺はその眠ったれいむの写真を撮るとデスクの機械に入れて客の要望を打ちこむ、そして全国の支部のデーターをコンピューターが自動的に集めるのを待つ。 しばらくして隣接県の支部や北東部の支部から172件のゆっくりのデーターが送られてきた、俺はそれを一つ一つ見て最適なゆっくりを選ぶ。 勿論172件もデーターを見るのは面倒なのでさらに細かい条件を付け加えて仕事に使うデーターを8件まで絞る。 俺はそのデーターを手元にある、さっき眠らせたゆっくりれいむの簡単な資料を見ながらどれが最も最適かを吟味する。 まずあの奥さまの持ってきたれいむは家の中に入り込んでお家宣言をした奴を躾けたらしい。 れいむの親ゆっくりは父役も母役も不明、最初にあった時はミカン程の大きさだったと聞いたからその時点でれいむの年齢は生後三か月から半年程度と推測できる。 その後三年間飼いゆっくりとして屋内で生活し……銀バッチを取得したのが一年前、半年ほど前からあまり動かなくなり、ゆっくりクリニックの診察で老化と寿命がわずかな事が確認される。 そんなれいむちゃんにピッタリなれいむちゃんは……こいつだ。 俺は端末を操作し隣接県の支部から送られてきたファイル?R−YS−08827のゆっくりを選ぶ。 野良ゆっくりとして捕獲されたそのゆっくりのデーターが最も奥さんから預かったれいむのものにマッチすると思ったからだ。 「れいむ、今のうちに飼い主さんの幸せな夢でも見るんだな……ふふふのふ」 俺はゆっくり虐待が割と好きだ、だからこそこれからこのれいむがどんな目に逢うかを思うと笑みがこぼれる。 男の麻酔で眠ったれいむは夢を見ていた、 飼い主とゆっくりする夢をだ。 夢の中のれいむは今よりも若く、大きさもリンゴほどの大人になったばかりのゆっくりだった。 れいむは台所にいる飼い主が料理を作るのを見るのが好きだった、飼い主の手はれいむにとっておいしいものを作ってくれる魔法の手だった。 れいむはまた違う夢を見た玄関で幼い飼い主を待つ夢だ。 幼い飼い主が帰ってくるとおかえりなさい!ゆっくりしていってね!と言って跳ねて見せる。 おかえりれーむ、そう言って自分を抱きしめてくれる幼い飼い主をれいむは一番の友達だと思っていた。 夜の玄関で大きな飼い主を待つ夢を見る、酒臭く熊のように大きい飼い主はゆっくりおかえりなさい!をすると酒臭くぶつぶつのひげの生えた顔でチューをするけど大好きだった。 またれいむの見る夢は変わった……今度のれいむはミカン程の大きさで泥まみれでゆっくりできないでいた。 まだ飼い主でなかったお母さん達に頬を膨らませて出て行けと言っている、お母さんはため息をついてデコピンをする。 これかられいむとお母さんとその家族は仲良くなって徐々に打ちとけあって大切な家族になる。 また夢の中でれいむの大きさは変わり、現実の世界で眠っているれいむと同じ西瓜ほどになった。 飼い主の膝の上でぐっすり眠るという、夢の中で眠る夢、れいむの幸せな夢は続く。 年配の女性が預けたゆっくりれいむが夢を見ているころ、ペットショップのガラスケースから一匹のゆっくりれいむが事務室に移されていた。 大きさはりんごほど、まだ若いゆっくりれいむのリボンには銀バッチがついている、初めて来たペットショップの事務所と初めて入れられた身動きの取れないほど狭い鉄のケージ。 それでもれいむは騒がずゆっくりできない場所でじっとしていた、店員のお兄さんが飼いゆっくりになれるかもしれないと言ってくれたからだ。 (れいむはこのときをゆっくりまったよ……やっとゆっくりできるようになるよ!) れいむは何が何でも飼いゆっくりになりたかった、その為に芸を覚え勉強もしてバッチも取った、人間さんをゆっくりさせられるゆっくりになったと思っていた。 れいむはここでの暮らしが大嫌いだった、ペットショップの端の端、日の当らない薄暗い場所でまずいご飯を食べるのも後輩のゆっくりが人間さんに飼われていくのをただ見るのも沢山だった。 れいむはゆっくりしたかった、温かくて広いお家に住んでおいしいご飯を食べて、飼い主さんと仲良く遊んで、可愛いお嫁さんを見つけて子供をたくさん作って、たくさんのゆっくりできることをしたかった。 (ゆっくりするよ!れいむはたくさんゆっくりできるゆっくりだってにんげんさんにわかってもらうよ!!ゆんせいさいこうのゆっくりしていってねでにんげんさんをめろめろにするよ!!) ゆっくりらしからぬ強い目的意識……れいむが飼いゆっくりに固執するのには訳があった。 両親共に野良ゆっくりだったれいむがペットショップに潜り込めたのは幸運と両親の犠牲があった。 れいむはあの日の事を忘れられなかった、ある日いつものように狩りに行ってきた親まりさがボロボロになって帰ってきた。 体中に大小の歯型ができていて噛みちぎられた頬からは餡子が見える、泣きながら頬ずりをした親まりさの体はいつもよりも冷たかった。 ダンボールハウスで親れいむと懸命に親まりさの怪我を治そうとしたが、親まりさはうめき声をあげ最後まで苦しみながら死んでしまった。 親れいむもれいむ自身も何も言わなかったが、親まりさの体中についた歯型は野良ゆっくりのものだった。 同族にかじり殺されるという悲惨な死に方も都会の野良ゆっくりの死因としてはマシなものだった、十分に餌がなくゆっくりの命を奪う危険な物にあふれた街で天寿を全うするゆっくりなどいない。 野良である以上希少種だろうが捕食種だろうが、この親まりさのように時にはそれ以上むごたらしい死が訪れるのは必然だった。 声がかれるまで泣いた後供養のため何より飢えをしのぐため、死んでしまった親まりさを二匹になったゆっくりの家族は黙々と食べる。 甘ったるく美味しい物を食べているのにしあわせ~の声は出ない。 「おちびちゃん……のらのままじゃいつかまりさみたいになっちゃうよ」 「おかあさんはそんなのいやだよ!だから……おちびちゃんをかいゆっくりにするよ!」 れいむの涙でゆがんだ視界に映る親れいむに右目は存在しない、街道で飼いゆっくりにしてもらえるように歌っている所を通行人に傘で突かれてこうなったのだ。 「ゆっ……そんなのむりだよ……のらはかいゆっくりになれないよ!!」 「むりじゃないよ!おかあさんにかんがえがあるからまかせてね!」 一週間後、れいむは親れいむの言う通りペットショップに置いてもらえることになった。 親れいむの言う作戦はこうだった、親れいむとれいむでペットショップに侵入し、親れいむが暴れているすきにれいむはどこか適当なところに隠れて店員が見つけるまで隠れていること。 見つかったら、ケージから落ちて怖くて隠れていただのなんだの言ってケージに入れてもらうという、何が切っ掛けっで破綻してもおかしくない計画。 成功したのは親れいむが子ゆっくりが大量に入ったケージに体当たりし中の子ゆっくりを何匹か食べたことで、れいむが生き残った子れいむだと思われたことだった。 店の商品であるゆっくりを潰した野良がどんな目に会うか、それを分かって親れいむは実行しれいむをペット候補になるゆっくりにしたのだ。 (おかあさん……おとうさん……れいむはかいゆっくりになるよ!ふたりのぶんまでしあわせになってゆっくりするよ!) れいむのゆっくりはれいむ一匹のゆっくりではない、苦しんで死んだ親まりさ犠牲になった親れいむのゆっくりでもあるのだ。 一年間、季節が変わるごとに目立たず値段が低い場所に移動を繰り返したれいむはもう自分に後がないことが分かっていた、飼いゆっくりになるラストチャンスを絶対にモノにする。 ゆっくりらしからず静かに闘志を燃やすれいむをにたにたと笑いながら見つめる男がいた。 れいむをここまで運んできた店員のお兄さん、彼が笑っているのはれいむが飼いゆっくりになれるかもしれないのを喜んでいるのではない。 れいむのこれから味わう苦痛を想像して陰鬱な笑みを浮かべているのだ。 (飼いゆっくりか、夢は叶うぞれいむ、もっとも想像していたものと少し違うかもしれないけれども) 店員お兄さんの後ろから店長の話声と二つの足音が聞こえる、れいむのお迎えが来たようだ。 (じゃあなれいむ、せいぜい楽しく生きろよ) 鉄籠に入れられて身動きの取れないれいむに店長についてきた男が注射を打つ、ゆっくりしていってね!とお約束を言おうとしたれいむも挨拶を中止して悲鳴を上げる。 「ゆっくぎぃいい!!いだぃいいいい!!!!」 店員お兄さんは耳と目でその様子を楽しむと仕事に戻ることにした。 殆ど同じ時間、別々の場所で同じ麻酔を打たれた二匹のれいむ。 二匹はそれぞれに安全なルートを通ってある場所に運ばれた、ゆーめい!(あなたとゆっくりのしあわせ~をまもりまっせ¥)株式会社が所有する施設、通称ゆっくり工場へ。 工場内は殺風景ではあるがおおむね清潔な空間で、作業着の男女がゆっくり達に定められた手順で細工を施していた。 この工場で行われていることはゆーめい!(あなたとゆっくりのしあわせ~をまもりまっせ¥)株式会社を利用した顧客にが想像もしない、決してばれてはいけない作業だった。 ゆっくりの記憶の摘出と移植、それがゆーめい!社のゆっくりの延命サービスの全容だった。 そもそもゆっくりの体で最も重要な器官はゆっくりの中心部にある球状に餡子が固まった部分、ゆっくりの核だ。 そこはゆっくりの体で髪や飾りを除いて唯一再生能力を持たない器官であり、周囲に十分な質・量の餡子がないと干からびてしまうし核に傷をつければゆっくりは容易く死ぬ。 そのゆっくりの核はゆっくりが成長するごとに少しずつ大きくなり、ある時期を迎えると徐々に小さくなって行き最後には周囲の餡子と溶け合い無くなってしまう、これがゆっくりの死だ。 だから年老いたゆっくりの縮小を始めた核を若いゆっくりの体に移植しても、せいぜい一月か二月寿命を延ばすのがやっとなうえ、手術の失敗の可能性もある。 そこでこの工場ではゆっくりの記憶を別のゆっくりに植え付けるという方法でゆっくりを治していた。 「ゆぅう……ゆっくりできるよ……」 今眠りの世界にいる飼いゆっくりのれいむは作業着の男性に記憶の摘出のため、体にプラグを突き刺されていた。 極太の三本の針が体に突き刺さっても、れいむはわずかに眉をしかめるだけで起きはしない、強力な睡眠薬は痛覚を和らげ体に火がついてもゆっくりを眠らせられるほど強力だった。 そして睡眠薬にはもう一つの効能、ゆっくりの記憶を呼び覚まし記憶の抽出を簡単にする作用があった。 記憶を奪われることでれいむの見る夢は少しずつ曖昧なものになっていく。 夢の中、飼い主に公園に連れてきてもらっていたれいむの周囲が歪んで消えていく。 公園の緑の芝生がなくなりお日様がなくなり、舐めているアイスの甘さが無くなり飼い主の膝の感触が底部から無くなる。 膝枕をしてくれていた飼い主の顔が消え、その飼い主の隣でぐっすり眠っている飼い主の顔も消え、ジュースを買ってきてくれた肥満体の飼い主の顔が消える。 「ゆぐぅう……ゆっ……ゆっ」 眠っているれいむは眉間にしわを寄せゆっくりできない表情で唸っている。 記憶を強引に引き出すこの作業は意識の起きたゆっくりにすれば発狂することもある程心身ともにダメージのある手術だ。 れいむは夢の場面が変わるたび、その夢でゆっくりしていた事が真っ黒になっていく。 「ゆぶぶっ……ぶっ……」 精神的ショックで餡子を吐くれいむ、飼いゆっくりのそんな様子を見ても作業着の男性は顔色一つ変えない。 ゆっくりを嫌っていないが好いてもいない彼にとって、ゆっくりの記憶の抽出作業は壊れた携帯からメールなどのデータを引き出すのと大して変わらない作業だからだ。 「ぶっ!ゆぐ……」 十分に記憶を取り出した作業着の男は銀バッチのついた飾り、そしてもみあげ飾りを記憶を吸い取られたれいむから取り上げる。 気絶しているのか……死んだのか……ぴくりとも動かなくなったれいむを数匹のゆっくりの詰まった袋に詰める。 そしてれいむの記憶を保存したディスクを封筒に詰めておく、後の仕事、ゆっくりに記憶を植え付ける作業は隣の作業場の担当になる。 あそこで今れいむから抜き出した記憶はまるで違うゆっくりれいむに植え付けられ、飼い主のもとに送り返されるそうだ。 さて出来高払いの仕事だ、スピーディにやらなくては……一連の処理を済ませた男は作業台の横にあるレバーを引いて新しくゆっくりを催促した。 れいむが記憶を吸い出された次の日、ゆーめい!(あなたとゆっくりのしあわせ~をまもりまっせ¥)株式会社を利用した夫人のもとにゆっくりれいむが戻ってきていた。 夫人はれいむが若返って帰ってきたのを喜んだ、れいむはとても元気になった、元気に跳ねて沢山ご飯のおかわりをする姿は、まるで数日前のれいむと別のゆっくりのようだ。 「は~むっはむっ!ゆゆ~ん♪おいし~よ!」 「ちょっと食べカス飛んでるわ、あんたよく銀バッチ取れたわね、もぅ心配かけて」 「はっはっは、れいむが元気になってよかったなお母さん」 「えぇ、本当にうれしいわ」 れいむが元気になって帰ってきたのを一番喜んでいるのは娘、二番目は夫。 私も家族の一員が帰ってきたのがとても嬉しい、それなのに何かおかしい気がする。 食事の間中、夫人はゆっくりれいむに小さな違和感を感じていた。 「ゆっぷ……たくさんたべたよ~おと~さんゆっくりうごけないよ~」 「れいむはめんどくさがり屋さんだな、どれどれ、テレビの前まで運んであげよう」 「ゆっくりはこんでね!」 「ま~たお父さんを足にする、れいむぜったいお父さんみたく太るよ~」 「ゆっふん!れいむはおとうさんがふとってるからうんどうさせるんだよ!かいぬしのためにけんこうをぎせいにしてるんだからほめてね!」 「なんだとぉ~!そんなこと言う奴はこうだ!」 「ゆふぃふぃ、ひっぱらないでひぇ!」 「キャハハ、れいむの顔おもしろ~い」 そうね気のせい、こんなに図々しくてちょっと毒を吐くれいむなんて家のれいむだけよ。 夫人の違和感は、顔を真っ赤にしてれいむの頬を引っ張る夫と、頬を引っ張られるれいむと、笑う娘を見ているうちに消えて行き二度と、れいむが何か変だと思うことはなかった。 そのころ記憶を奪われたゆっくりが詰められた袋はトラックに載せられ、ゆっくり加工場に走っていた。 記憶を抜かれたゆっくりは味が著しく落ち、食品として使い物にならなくなってしまう為、加工所にある大きな炉で焼くのが正しい処理方法なのだ。 つい先日まで飼い主に可愛がられ、金を払ってでも長生きさせたいと願われたペットゆっくり達は通常種・希少種・胴付きバッチの有無は関係なくゴミ袋に詰め込まれていた。 その中のゆっくりのほとんどは記憶を吸い取られる過程で命を落としていたが、ほんの少しのゆっくりは大量に餡子を失ってなお生きながらえていた。 「ゆっ……ゆ」 れいむがそうだった、袋の中飾りのないゆっくりの死体に囲まれてれいむは疲れ切った体でぼんやりとしていた。 ここはどこだろうーーーは何なんだろう?思い出せないーーーはーーーなのに。 自分がどんな種類のゆっくりかも忘れたれいむが炉で焼かれるのはこれから一時間後のことだった。 れいむは死ぬ間際まで自分がどんなゆっくりか思い出せなかったし、死ぬ瞬間大事にしてくれた飼い主のことを思い出す事も出来なかった。
https://w.atwiki.jp/bsorica/pages/487.html
[ずっと一緒に]レイ・オーバ 4(2)/黄/詩姫・私服 1 Lv1 3000 2 Lv2 5000 OC 2+ +2000 【チーム:シャイニーハーツ】 魂状態のこのカードには《契約煌臨》できる。このとき、煌臨するカードに、自分のフィールド/リザーブのコアを好きなだけ置く。 【契約煌臨元】/【スピリット】Lv1・Lv2自分の効果で「レイ・オーバ」かブレイヴを召喚/煌臨した時、自分のカウント+2する。さらに、このスピリットはブレイヴ2つまでと合体できる。 【契約煌臨元】Lv1・Lv2:フラッシュ『このスピリットのアタック時』ターンに1回、自分の手札にあるブレイヴカード1枚をこのスピリットに直接合体するように1コスト支払って召喚できる。 シンボル:黄 フレーバーテキスト:これからも続くあなたと私の二重奏! 作者:レイ先輩の彼氏 概要 月ノ雫のBSラジオ#7採用 評価 選択肢 投票 壊れ (0) 優秀 (0) 普通 (0) 微妙 (0) コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tokimekicn/pages/1394.html
風と一緒に行こう 「藤崎诗织」以虚拟偶像身份演唱的曲目。 此曲目被收录于部分重名的单曲小碟,详情请参见『教えてMr.Sky/風と一緒に行こう』。 歌曲信息 作词,作曲:尾崎亜美 编曲:富田素弘 Piano:Motohiro Tomita Drums:Eiji Shimamura Guitar:Tsuyoshi Kon Bass:Rei Ohara Synthesizer:Nobuo Moriyasu Chorus:Junko Hirotani, Misa Nakayama 演唱:藤崎诗织 歌词 果てしなく 遠い空 なんだか くじけそうで わたしは誰? 教えてよと 風に問いかけた 大きなものに 立ち向かうたび せつなく あふれるMelody Step by step ゆっくり登ろう I ll be there いつか辿り着くから Step by step I m ready for you 風と一緒に行こう 翼を重くさせる 金曜日の約束 恋しいくせに 持て余した 心を助けて 自分が急に 変わり始めたことに とまどってるだけ Stand by me 未来を信じて I ll be there いつかそこへ行くから Step by step I m singin for you 風も笑っている Step by step ゆっくり登ろう I ll be there いつか辿り着くから Step by step I m ready for you 風と一緒に行こう 風と一緒に行こう 收录CD 藤崎诗织 教えてMr.Sky/風と一緒に行こう (1996/12/05) 藤崎诗织 My Sweet Valentine (1997/02/14) 藤崎诗织 forever with you (1999/12/03) 相关页面 音乐 心跳回忆精选集藤崎诗织 藤崎诗织
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/411.html
戻る TOPへ 次へ 「あなたですね。ツガルタイプのシルヴィア。先日の大会で優勝なさった」 不思議な物腰の男。敵対心等は無いようだが、かといってとっつき易い雰囲気でも無い。 「非常に個性的な戦い方をしていましたね。相手の隙を突いてアウトレンジからクロスレンジへの迅速な移行と離脱。欠点を逆に利用する戦略性。上位のバトルでもなかなか見れるものではありませんでした」 この男の発言の節々から、前大会での戦略はチェックされ尽くされてると言った雰囲気が読み取れた。 「そして決勝戦での鬼気迫る熾烈な接近戦。正直、感動しました!」 しかしよく喋るこの男、何者なんだ――― 「―――だが、それだけではこの先生き残れない」 ………!? 突然、低く無機質な神姫の声が会話に割り込んだ。 身構えるおれとシルヴィア。 ツガル戦術論-副題 シルヴィア地獄激闘編(中) 「こら、あれほど口を挟むなって言ったじゃないか」 男のサイドポーチから一体の神姫が飛び出した。アーンヴァルタイプ。 天使型MMSを印象付ける軽やかな金髪ではなく、深夜の積雪を連想させる銀髪である事が、彼女をアーンヴァルタイプだと認識させるのを一瞬遅らせる。銀髪のアーンヴァルは低音の機械的な声で続ける。 「キョウジ、我々は自己紹介がまだだ。その点を指摘するために会話に参加させてもらった」 キョウジと呼ばれた男はああ、そうだった。と言う表情。 「紹介が遅れまして。私は御影恭二。こちらはアーンヴァルのマスターミラー。セカンドリーグ所属のバトルマスターです」 ばつが悪そうな表情で、最後によろしく、と付け加えられた。 「こっちの紹介は… いらないな。こちらこそ、よろしく」 よろしくと言われれば、こちらもよろしくと返す。一応の自己紹介は済んだ。だが気になるのは彼の神姫、マスターミラーの先ほどの発言だ。おれの不信な心境が顔に出てたのか、キョウジの肩に乗るマスターミラーは口を開いた。 「これから対戦を挑もうと言う相手に自己紹介も無しでは、《ミラー・オブ・オーデアル》の二つ名が傷つくであろう?」 やはり、そういう展開か。 キョウジは自分の神姫の口調に対し、仕方ないな、と言う表情。 「実は私も次回の大会に出場するのですが、偵察も兼ねてあなたにバトルを申し込みに参りました」 ツガルタイプのシルヴィアと、そのマスター。受けていただけますでしょうか? 帰り支度を始めてたところだ。このまま断ったって文句は言われないだろう。しかし、 「良いだろう。受けて立つ」 このまま家に戻っても名案が浮かぶとは思えない。正直、二進も三進も行かぬ状態なのだ。二つ名を持つマスターは個性的な戦術を持つ者が多い。彼らの戦術から学ぶ点があるかもしれない。と言う期待もあった。 そして、何より、 「名指しで挑戦されたとあっては、断るわけにいかないもんな」 「忙しいところありがとうございます」 「いいって事。うちのシルヴィアよりもマスターミラーの方が上位ランクのようだ。胸を借りるつもりでやらせてもらうよ」 「私の名前はシルヴィア。シルヴィでいいわ。よろしく、マスターミラー」 「ミラーでいい。こちらこそよろしく、シルヴィア」 マスター同士で話をまとめてるうちに、神姫同士でも自己紹介を始めていた。 「ツガルタイプだからと思って甘く見てると痛い目に合うわよ? むしろ合わすわ」 「望むところだ。私は敵を過小評価しない。全力で戦わせてもらうぞ」 自己紹介は宣戦布告へと姿を変え、お互いの闘志を大いに燃やした。 神姫バトル。形式は標準的な1on1。ルールはセカンドリーグ基準。即ちバーチャル空間で行われる。 神姫のデータを仮想空間に反映させるローディング時間を利用して戦術の打ち合わせ。いつも通りのパターン。 「マスター。相手の、マスターミラーの二つ名だけど」 「ミラー・オブ・オーデアル」 「直訳すれば鏡の試練、と言う意味みたい。マスターは彼らのデータをご存知?」 「いいや。まったく」 「データ無しの戦闘…。 あなたの観察眼が頼りね、マスター。情報支援をよろしく」 「任せな」 メインモニターは神姫のデータコンバートが終えた事を示していた。 続いてサブモニターに表示される敵神姫のデータ。おれの領域の戦いはここから始まっていた。数少ない情報から相手の得意とする戦略を割り出す。 敵神姫の武装した姿は一見、アーンヴァルの高機動ユニットを背部に背負った、何の変哲の無い標準の天使型MMSに見える。だが、注目すべき点を三つ発見出来た。 高機動ユニットにレドーム等の情報戦用装備が備えられている点。即ち、遠距離戦に重きを置いたタイプである事が予測出来る。 武装の組み合わせは腕に機関銃と盾を装備、背部高機動ユニット翼部に長距離ミサイルを抱えている。盾を除外すれば武器が二種しか搭載しておらず合計攻撃力が低めにまとめられている点。しかし機関銃とミサイルの相性は悪くない。遠距離において高い誘導性と攻撃力を誇るミサイル、これを嫌い接近してきた敵を機関銃で追い払い、アーンヴァル特有の機動性で間合いをコントロールし続ければ戦闘のイニシアチブを握る事が出来るだろう。脅威の度合いは高い。 盾によってアーンヴァルの低い防御力を補ってる点。距離減衰によって銃器の攻撃力が低下しやすい遠距離戦ではあの盾によって有効打を与えられない可能性がある。 もちろん相手のサイドボードに副兵装が仕込まれてる可能性もあるが、この時点ではそこまで見る事は出来ない。相手の総合火力を踏まえた上で予測するなら、弾切れを懸念して予備のミサイルを仕込んでいる可能性がある。と言う所だろうか。 以上のデータから、さらに敵アーンヴァルの戦闘行動パターンを予測。 戦闘開始直後に遠距離へ離脱。こちらの有効射程外からミサイルによる遠距離攻撃を仕掛けてくる。遠距離からのこちらの攻撃は高い機動と盾による防御力でほとんど通用しないだろう。有効打を与えようと接近すれば機関銃による攻撃が待っている。その隙に再度距離を取られる。つまり間合いを遠距離に保ち、一方的に攻撃するタイプだと予測。さらにミサイルと言う誘導兵器を搭載している敵の最大有効射程は長い。このバトルで待ちの姿勢は通用しない。 そして忘れてはいけないのが、敵はシルヴィア対策を行っているであろうと言う事。中距離が苦手と言う欠点を長所に活かす戦術は通用しないだろう。 即ち、シルヴィアが取る戦略とは。 相手の有効射程の切れ目、ミサイルと機関銃の隙間である中距離に飛び込み、出来る限り強力な攻撃をお見舞いしてやる。 もちろん相手もそれを隙として狙い近距離に接近、機関銃による攻撃を行う可能性というのもあるが、距離感の把握についてシルヴィアが劣るとは思っていなかった。 と、そこまで考えて、ある事に気が付いた。これは形こそ変わるが、今までのシルヴィアの戦略に酷似している。 ミラー・オブ・オーデアル。鏡の試練。それはひょっとして、相手と同じ戦略を用いるスタンスを示しているのではないだろうか。 以上の考えを、手短にシルヴィアに伝えた。 「私の得意とする戦法を、相手も使ってくるかもしれない。ね」 ロマンチックじゃない。とシルヴィアはあくまで余裕。 「それなら私達の戦略を客観的に捉えるチャンスじゃない。思惑通りってところかしら?」 シルヴィアの言う事は正しい。今回のバトルは予想以上の収穫がありそうだ。 やがてバトルの準備が完了した。 サンタ型MMSツガルタイプ シルヴィア V.S. 天使型MMSアーンヴァルタイプ 《ミラー・オブ・オーデアル》 マスターミラー ルール:セカンドリーグ基準 バトルフィールド「ゴーストタウン」 Get Ready? 3... 2... 1... GO! 周囲索敵。まずは敵影無し。 私はスラスターを噴射。 ヘッドセンサーをフル回転させ、敵の初撃に備える。 続く 戻る TOPへ 次へ
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/301.html
序 見渡す限り緑の山が広がっている。 青い若葉をつけた木々が山の斜面を覆っていた。 山々から突き出た一際高い峰には、まだ冬の名残が白く残っている。 川は、森を貫いて南北に走っていた。 大きな川とその支流に鉄橋がかかり、その上を国道が走る。 鉄橋の上を走る道路は、トンネルへ繋がっていた。 反対側の出口からは、スノーシェッドが伸びている。 コンクリートと鉄骨でできた骨組みだった。 トンネルを抜け出た後、しばらく道路の上を覆って建てられている。 雪崩が起きても、強固な屋根が道路を走る自動車を守ってくれる。 その中を一台の車が走っていた。 ワゴンタイプで、運転席には一人の男が座っている。 横顔に鉄骨の影が映っては流れていく。 男はこの先にある小さな丘に向かっていた。 もう何度もそこを訪れていた。 何の変哲もない、どこにでもある丘のうちのひとつだ。 男は地元のドライブインに勤めている。 休みの日にドライブに行く振りをして、こうして森の中へ向かうのが楽しみだった。 ゆっくりを虐待することが生きがいのようなものだった。 骨組みの途切れたところで、男は車を停めた。 道は緩やかにカーブして、周囲を林に囲まれている。 ここから少し歩いたところに目的地はある。 車を下りて、草むらの中を歩いた。 少し前にも、こうしてここを訪れたことがあった。 あの時連れ帰ったみょんは、まだ家の中にいる。 大人しいもので、最近はついそこにいることを忘れそうになる。 帰ったら久しぶりにちょっかいをかけてみるかと男は思った。 草むらの真ん中で男は足を止めた。 この先にはゆっくりたちの群れがある。 再びそこを訪れようか、それとも今日はこのまま帰るか。 男はポケットに二つの飴が入っていることを思い出した。 確か赤と青の二種類があったはずだ。 他愛もない遊びだ。 どちらか一つを取り出して、赤なら訪れる、青なら帰る。 男の手はポケットの中で二つの飴をまさぐっている。 一ヶ月前ここに来た時も、こうして二つの飴を選んだ。 ただし、それを選んだのはあのみょんだ。 男がそうさせた。 男は飴を取り出した。 手の中のそれは、紫色をしていた。 少し笑って、考えるそぶりを見せた。 どうしようか? 男は逡巡を楽しむようにゆっくりと辺りを見回した。 この群れであったことを、思い出していく。 あれは、一ヶ月前のことだった。 1 一ヶ月前。 木々がようやく芽吹き始める頃。 日差しが暖かさを増して、朝夕に土から立ち上ってくる匂いが春を告げている。 この群れでは、大小三十匹程度のゆっくりが暮らしていた。 今はそれぞれが土の中から顔を出し始めた虫を狩りに出かけたり、すっきりに勤しんでいる。 れいむはまりさを待っていた。 巣穴の前でのーびのーびをして、木々の奥をさかんに覗いている。 待ち遠しくて仕方ない様子だった。 すぐに、れいむの見ている場所の茂みから小さな黒いものが姿を現した。 こちらへ跳ねてくる。 まりさだった。 まりさは上機嫌だった。 れいむも待ちきれずに駆け出した。 跳ねながら叫ぶれいむに、まりさもおさげを振って応える。 「まりさ、おそいよ! おなかぺこぺこになっちゃったよー!」 「れいむ、ごはんさんとってきたよ! いっしょにむーしゃむーしゃしようね!」 れいむは狩りができなかった。 まりさが狩りに行っている間、巣の中でおうたを唄っていた。 待ちきれなくなって様子を見に外に出たところに、まりさが帰ってきたのだった。 狩りはまずまずの成果だったようだ。 まりさが開けた帽子の中には木の実や虫がどっさり詰まっている。 土の上にこぼれ落ちたそれらを、れいむは見境なく食べ始めた。 「むーしゃむーしゃ! うめっ! これめっちゃうめっ!」 「れいむ、おうちについてからゆっくり食べようね」 「ゆゆ、そうだね! ふたりで食べたほうがおいしいもんね!」 二匹はいそいそと巣穴の中に潜り込んだ。 巣は土に穴を掘っただけの簡単なものだ。 二匹が入るとそれだけで一杯になってしまう。 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 笑顔でご飯を食べる二匹。 顔を突き合わせて、二匹の間に置いたご飯を少しずつ口に運んでいく。 その日が幸せなら、どんな場所でもゆっくりは幸せなのだった。 そんな二匹にも、悩みがあった。 おちびちゃんがいないのである。 「れいむ、もうからだはだいじょうぶ?」 二匹は数週間前に一度すっきりーをしていた。 れいむに生えた茎に実ゆがつき、おちびちゃんの誕生を二匹は待ち望んだ。 しかし、れいむの餡子をたっぷり吸って丸々と大きくなった四匹の実ゆは、 北の空っ風に吹かれて、運悪く茎から落ちてしまった。 地面に叩きつけられた四匹は、全て餡子を飛び散らせてゆっくりした。 目の前でそれを見たれいむは、ひどく悲しんだ。 待望のおちびちゃんが、不幸な事故で、生まれる前にゆっくりした挨拶もできずに飛び散ってしまったのである。 初めての子供を期待していただけに、そのショックも大きかった。 ご飯も喉を通らず、砂糖水の涙を滝のように流して泣いた。 まりさにも当たり散らした。 まりさは、たったひとりのつがいがそのように悲しんでいるのを見ていられなかった。 弱って動けないれいむに餌を運んだ。 その間すっきりもできないので、持て余したむらむらをひとりすっきりーで発散させたりもした。 その甲斐あってか、徐々にれいむは元気を取り戻し、失った餡子も回復してきている。 れいむ自身も、そろそろもう一度、まりさとすっきりしたいと考えていた。 当ゆんたちから見れば、いまだ授からぬおちびちゃん以外、何一つ不満のない生活だった。 二匹がご飯を食べていると、遠く丘の上のほうからゆっくりたちのわっという歓声が聞こえてきた。 「ゆゆ? なんだろう?」まりさが外をのぞく。 れいむも外を見た。 ちょうど自分の分を食べ終えて、まりさの隣に並ぶ。 狭い入口に二匹が並ぶと、お互いに変な形に潰れて窮屈そうだった。 「なにかあったのかな?」 「いってみようね!」 二匹は連れ立って丘の上に向かった。 まりさはれいむの体を心配したが、もう大丈夫とれいむが言うと、まりさも頷いた。 なだらかな斜面をぽよんぽよんと登っていく。 国道沿いの林の周りには草むらが広がっている。 そこから群れのある森が広がり、丘をぐるりと囲んでいる。 反対側は崖になっていた。 丘の上には、一本の大きなイチョウの木があった。 冬の間に芽を伸ばし、今は若葉が枝に開いている。 れいむたちは丘の上に着いた。 声はそこから聞こえてくる。 たくさんのゆっくりたちが集まって大騒ぎになっていた。 大きなイチョウの根元にまりさや、ちぇんや、ありすなどがいる。 他にも数え切れないほどのゆん数がいる。 群れの全員が集まっているのではないかというほどだった。 その中心に、れいむは見慣れないものがいるのに気付いた。 それは非常に背が高かった。 森の木々に比べれば低いが、集まったゆっくりたちよりはるかに大きい。 その顔は地上からはるか上にあり、ゆっくりたちを見つめている。 顔から下にはぼんやりと白く霧のようなものがかかっていて、 目を凝らしてもよく見えなかった。 れいむの知っている、どのゆっくりとも違った。 まりさやぱちゅりーたちのように、顔の横におさげがない。 おかざりやぼうしを着けているわけでもない。 長ぱちゅりーの話にたまに出てくる、「人間」と言うやつかもしれない。 それはとても恐ろしく凶暴で、ゆっくりたちのことをよく潰してまわっているそうだ。 なんだかゆっくりできないやつだな、と思った。 れいむはそれが本当に人間かどうか判断がつかなかった。 いまいち、ぴんと来ない。 森の獣が恐ろしいのは知っていても、人間など一度も見たことがない。 人間の手からは、あまあまが落ちてくる。 白い霧からにゅっと空中に突き出されたあまあまが地面に落ちると、いっせいにゆっくりたちが群がる。 そのたびに歓声が上がった。 れいむたちは、ゆっくりたちの輪に近づいた。 とても人間には近づけないくらい、混み合っている。 その混雑の中に長ぱちゅりーがいた。 ひどくあせっている様子だった。 喉が張り裂けそうな大声をあげて、何ごとかを訴えている。 「まって! みんな!」ぱちゅりーが叫ぶ。 「にんげんさんからもらったものを食べてはだめ!」 ゆっくりたちは聞く耳を持たない。 あまあまに殺到した一匹のゆっくりが押し合いになって転がり、ぱちゅりーにぶつかりそうになった。 帽子に傷のあるまりさが、さりげなくぱちゅりーを押して避けさせたのをれいむは見た。 まりさが長ぱちゅりーに声をかけた。 「おさ、どうしたの?」 「まりさ、あなたからもみんなに ちゅういしてちょうだい。 にんげんさんは、とってもきけんなのよ! すぐに にげなきゃだめよ!」 「ゆ? なんで?」 れいむは平気な顔をしている。 いきなり現れてあまあまをくれるなんて、いい奴に決まってるじゃないか。 長ぱちゅりーがなぜむきになるのかわからない。 今危険でないなら、これからも危険ではないだろう。 大抵のゆっくりも似たようなものだった。 「なんでかはわからないけど、とにかくきけんがあぶないのよ!」 出所のわからない衝動に突き動かされて、ぱちゅりーは叫んだ。 遠い親の親から受け継いだ、かすかな記憶が警告を発している。 「人間から離れろ」という警告だった。 しかし、それはすでに遅かった。 最初の犠牲者が出た。 ぐしゃりと湿った音がする。 人間の手から差し出されたクッキーに顔を近づけて受け取ろうとしていた一匹のまりさが、人間の翻した拳に潰された音だった。 全ゆんが静まり返った。 ぽかんと人間を見上げている。 れいむとまりさも、その場で人間と潰されたまりさを交互に見比べている。 人間は次の獲物を探した。 ゆっくりと動き出し、まりさの隣にいたつがいのありすを捕まえる。 ごく自然に手を伸ばし、ありすを持ち上げ、地面に叩きつけた。 「ゆびゃ!」 ありすは顔の前半分が潰れた状態でまだぴくぴくと痙攣していた。 カスタードが地面に染み出してじわじわと広がっていく。 それまで絶句していたゆっくりたちがやっと声を上げた。 「……ゆ、」 目が段々大きく見開いていき、顔が青ざめる。 「ゆぎゃぁぁぁぁ! ゆっくりできないにんげんさんだぁぁぁぁ!」 ゆっくりたちは我先に逃げ惑った。 前列にいたものは後列のゆっくりの頭を踏みつけ、後ろの方で見ていたゆっくりは数メートルも丘を転げ落ちて止まった。 潮が引くように、丘の上からゆっくりたちが離れていく。 大混乱の中で、れいむは立ちすくんでいた。 まりさが必死に逃げろと叫んでいるが、耳に入らない。 その目は、いましがた二匹のゆっくりを殺したばかりだというのに何の表情も浮かべていない、人間の顔を見ていた。 人間が一歩、れいむの方へ踏み出した。 喧騒が遠く聞こえる。 れいむの世界にいるのは、自分と人間だけになった。 他には誰もいない。 人間もこちらを見ている。 自分も、あのつがいのように殺されるのかと思うと、餡子がきゅっと縮まる気がした。 その時に見たその顔が、餡子脳に深く刻み込まれた。 取り残されたれいむとまりさに、人間が近づいていく。 まりさが必死にれいむに呼び掛ける。 れいむには水中にいるようにぼんやりとくぐもって聞こえた。 人間が、また一歩を踏み出す。 その手がれいむに伸びた。 一方丘の下に逃げ出したゆっくりたちは、上を下への大騒ぎだった。 長ぱちゅりーがしんがりで声をかけて、何とか全ゆんが安全なところまで後退した。 長ぱちゅりーは、すぐに丘の上へ戻った。 長として、れいむとまりさを見捨てるわけにはいかなかった。 ゆっくりたちの輪の中から抜け出して、今や人間とれいむとまりさしかいなくなった丘の上に登る。 風に乗って、途切れがちな声が聞こえてくる。 大きくなったり、小さくなったりするが、辛うじて会話の内容は聞き取れた。 ぱちゅりーは耳をすませた。 「……にんげんさん、こっちこないでねぇぇ!」 見ると、人間が二匹の方へ歩いて行くところだった。 れいむとまりさは、最初の位置から動いていない。 逃げようにも、れいむが動けなかった。 人間は手を伸ばした。 とっさに、まりさはれいむを後ろにかばうように、人間とれいむの間に入り込んだ。 「れいむをつぶさないでね! わるいにんげんさんはこっちこないでね!」 「まりさ?」 れいむの目の前にまりさが立ちはだかる。 まりさの後頭部を見て、はっと我を取り戻したれいむは辺りを見た。 もはや群れのみんなはどこにもおらず、人間の手がすぐそばに迫っていた。 まりさの悲鳴がした。 「ゆわぁぁぁ!」 人間はまずまりさを捕まえた。 道に空き缶が落ちていたから拾ったとでもいうように、無造作につかみ上げる。 まりさが暴れてもわめいても、人間の手はがっちりとまりさをつかんで離さない。 「はなしてね! つぶれりゅぅぅ!」 「にんげんさん! まりさをはなしてあげてね! まりさがつぶれちゃうよ!」 人間は聞く耳など持たなかった。 まりさを掴みながら、れいむにも手を伸ばそうとする。 まりさは、つい先ほど無残に潰されたつがいを思い出してぞっとした。 「やめてぇぇ! れいむをころさないでね! まりさはどうなってもいいから! れいむをたすけてあげてねぇぇ!」 まりさは、つがい思いのゆっくりだった。 人間と言う圧倒的な恐怖を目の前にして、自分よりもれいむのほうを選んだ。 人間の手の中で涙をぼろぼろこぼしながら、そんなことを叫んだ。 そんなまりさを、人間は一瞥しただけだった。 再びれいむに手を伸ばすが、その動きをちょっと止めた。 小脇に抱えた紙袋の中を覗く。 それはほとんど空っぽだった。 そこに入っていたあまあまの大半はゆっくりたちの腹の中に収まっていた。 底のほうに小さな飴玉が二つ、忘れられたように転がっている。 人間は何かを思いついたように、飴とれいむを交互に見比べた。 人間がいつまで経っても何もしてこないので、れいむは縮こまっていた体を伸ばして上を向いた。 放心したような表情で、人間を見上げる。 「にんげんさん、たすけてくれるの?」 人間はそれには答えずに、袋から飴を二つとも取り出し、呆然としているれいむの前に投げた。 二つの飴は、透明なビニールの安っぽい包装に包まれた市販のものだった。 赤色と青色が一つずつある。 「お前ら、全部ぶっ潰すつもりだったが、少し残してやってもいい」 「ゆ? ほんと?」 「ああ。まりさのつがいを思う心に胸を打たれた。でも見逃して帰るのもしゃくだ。 だから、むれか、つがいかどっちか助けてやるよ」 「あ、ありがとう、にんげんさん!」 心にもないことを言う人間。 れいむはわずかな希望に目を輝かせている。 「ただし、残すのは一つだ。群れか、つがいか。お前に決めてもらう」 「ゆゆ? わかんないよ!」 「そこに飴があるだろ? 赤い飴を選べばこのまりさを返すよ。 その代わり、群れのやつらはだめだ。赤を選んだら潰す」 「なにいっでるのぉぉー!」 まりさが宙ぶらりんで叫ぶ。 人間が何をしようとしているのか全くわからなかった。 「青を選べば、群れのやつらは潰さないでやる。その代わり、このまりさは」 人間はいったん言葉を切ると手に持っていたまりさを殴る真似をした。 「ぐしゃりだ。俺はどちらでもいい。ただゆっくりを潰したいだけだ。さあ、どうする?」 「ゆ? ゆゆ?」 れいむは、今の言葉を半分も理解していたか怪しいものだった。 しきりに体を左右に傾けている。 首を傾げる動作に相当するようだ。 「ゆう……よくわからないけど、まりさをえらぶよ!」 「だめ゛ぇぇぇ!」 まりさは悲痛な叫び声を上げた。 「あおをえらんでねぇぇ! まりさのことはいいからっ! あかをえらんじゃだめぇぇ!」 「どぼじでぇぇぇ! まりざをたすけるんだよ! いっぱいーむーしゃむーしゃしようね! すーりすーりもしようね! まりさがいないと、どっちもできないでしょぉぉ!」 「だめだよ……れいむ、むれのみんなが……」 れいむははっとして後ろを振り向いた。 遠くに、恐る恐る人間とれいむたちを眺めている群れのゆっくりたちが見える。 長ぱちゅりーが何か叫んでいるが、小さくて聞き取れない。 人間は、まりさを助けたら群れの皆を潰すといっているのだった。 まりさといっしょに助かっても、群れの皆は戻ってこない。 群れを助けても、まりさは死ぬ。 れいむはまりさが大切だった。 まりさのためなら、群れなんかどうなったっていいとさえ思う。 しかしまりさは群れを選べと言う。 自分ひとりのために、群れ全体を犠牲にすることは出来ないという判断だった。 どちらを選んだらいいか、れいむにはわからなかった。 まりさはじっとれいむを見た。 無言で、青を選べと伝えていた。 それはれいむにも伝わったようだった。 「ごめんねぇ……まりさ……ごめんねぇ……」 仕方なく、れいむは青いキャンディを選んだ。 その瞬間、まりさは少し微笑んだ。 全てを許容したような笑みだった。 「ふーん、絶対つがいを選ぶと思ったんだが、まあいいや。 それよりも、このまりさは気に入った。ここで潰すより、楽しめそうだ」 人間はまりさを手に持ったまま、踵を返した。 「まってねええ! まりさをかえしてねぇぇ!」 「れいむぅぅ!」 追いすがるれいむ。 人間の手の中に宙吊りになったまりさを見上げながら、大股で歩く人間と併走する。 まりさも、空中でれいむの方を必死に見ていた。 丘を降りた人間は、草むらを突っ切って国道に出た。 停めてあった車に乗り込む。 その頃には、れいむは引き離されて、はるか遠くにいた。 「これから家に帰って、虐待フルコースだ」 「ゆわぁぁぁ!」 乱暴に後部座席に放り込まれるまりさ。 エンジンをかけて、人間が出発する。 まりさの悲鳴は、エンジンの音に掻き消されて聞こえなかった。 一人と一匹を乗せた車は段々小さくなっていき、山の向こうへ消えた。 残されたれいむと群れのゆっくりたちは、呆然としていた。 長ぱちゅりーが追いついて、れいむの様子を見て驚いた。 れいむはまるで生気を失っていた。 体中から全ての力が抜けたようになって呆然とした表情でまりさと人間が消えた方角を見つめていた。 心なしか餡子もへたっているようだった。 「れいむ?」 れいむは答えなかった。 群れのゆっくりたちが集まってきて、大騒ぎになった。 長ぱちゅりーはそっとれいむに寄り添った。 一体何が起こったのか、誰も説明できるものはなかった。 人間は甘い顔で近づいてきて、ゆっくりたちを恐怖の底に叩きいれ、嵐のように去っていった。 まりさも連れ去られた。 誰もが納得できる理由を欲していた。 自分たちの身に起こった不幸を、説明できる現象が欲しかった。 天災なら諦めもつくが、人間の行為を自然のせいにすることはできなかった。 遠巻きに見ていたゆっくりたちは、不思議に思った。 近づくだけで潰されるような、危険な人間がどうしてれいむを潰さなかったのか。 つがいのまりさは連れ去られたというのに、れいむは無事だった。 当事者のれいむは、長の洞窟に篭もりきりだった。 まりさを失くしたショックでただ虚ろな目をするばかりだった。 不憫に思った長ぱちゅりーが、自らの洞窟に一時住まわせたのだた。 多くのゆっくりが説明を求めたが、長ぱちゅりーが会わせなかった。 根掘り葉掘り聞き出すのは、餡子脳に負担をかけることにもなる。 そのうち、こんな噂が立ち始めた。 れいむは、特別なゆっくりだったんだ。 だから、人間と対峙しても生き残ったんだ。 時が経つにつれて人間への具体的な恐怖は薄れ、代わりにそれが引き起こした結果が一人歩きし始めた。 まりさとありすのつがいが殺された。 れいむのつがいのまりさも連れ去られた。 れいむだけが生き残った。 れいむ本ゆんから話が聞けない以上、事件について語るときは憶測が多くなる。 元々精度の良くない餡子脳は、自分たちに都合のいいように事実を捻じ曲げて伝え始めた。 「にんげんさん、こわかったね……」 「あのれいむは、どうしてつぶされなかったの? わからないよー」 「きっと、にんげんより つよかったんだぜ!」 「ちがうわ、れいむはとかいはな ゆっくりだから にんげんがたすけてくれたんだわ!」 「どれもちがうよ! まりさとひきかえに、むれをまもったんだよ!」 どれもこれも尾ひれのついた、罪のない噂話に過ぎなかったが、最後だけは事実に近かった。 ゆっくりたちは襲撃という大きな痛手を乗り越えようとしていた。 自分たちに起こったことが、意味のないただの人間の気まぐれだとは信じたくなかった。 そこに意味をもたせることで、辛い事実にも耐えられるのだった。 れいむは祭り上げられた。 信じたいものを信じるゆっくりたちによって、れいむは英ゆんになった。 もちろんれいむは知る由もなかった。 暗い洞窟の奥で、日がな一日ぼーっとして過ごすだけだった。 長ぱちゅりーが餌を与えると、辛うじて食べた。 このまま回復するまで、放っておいたほうがよさそうだと長ぱちゅりーは判断した。 群れのゆっくりたちは、いつも通りの生活に戻り始めている。 長ぱちゅりーは一息ついて、洞窟の床に体を落ち着けた。 まだ芽吹いたばかりの草が、外の地面に広がっていた。 それが成長した時、この群れがどうなっているのか長ぱちゅりーは静かに思いを馳せた。 2 群れは平穏だった。 一週間が経ち、何ごともなかったかのように以前の生活に立ち戻っている。 れいむたちは長ぱちゅりーの洞窟で食事をとっていた。 そこは崖の下にある横穴で、奥は村の貯蔵庫も兼ねている。 長ならつまみ食いする心配はないと信頼されているためだった。 洞窟の少し奥まったところから、何かを咀嚼する音が響いている。 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 「うめっ! はふはふ! むーしゃむーしゃ!」 れいむは虫や木の実を食い散らかしていた。 手当たり次第に口に運んでは、乱暴に噛み砕く。 まだ小さなミミズや、ヤスデが細切れになって地面に落ちた。 「れいむ、もっとゆっくりたべなさい、むきゅ」 「ゆっ、なんだかわからないけど、たべたいんだよ! もっともっとたべたいよ!」 「みんながもってきてくれるごはんはそんなにおおくないんだから、だいじにたべなきゃだめよ」 「わかってるよ!」 あれかられいむは、元気を取り戻していた。 以前のような生活には戻れないが、少しずつ回復している。 まりさと住んでいた家は、辛い思い出があるのでもう住めなかった。 れいむは狩りができないので、そのまま長ぱちゅりーの家に居ついていた。 長ぱちゅりーは体が弱くあまり狩りに行かない。 しかし、ご飯に困ったことはない。 群れのゆっくりたちが、代わる代わる、その日余ったごはんを届けてくれるのだった。 ぱちゅりーが長になったときに出来た奇妙な習慣だった。 豊かなこの森では、小さな群れが暮らすには充分すぎるほどの餌がとれた。 いつからか、狩りに行って余ったごはんを長に「おすそわけ」するようになっていた。 長ぱちゅりーはたいていは群れのゆっくりたちが持ってきてくれるご飯を食べ、保存のきくものは巣の奥に貯蔵する。 万一の時にはここから食料を皆に配るのだった。 皆に余裕がないときは、自分でも狩りに行くことがある。 「みんなとってもゆっくりしてるわ。しあわせー、よ」 「しあわせー!」 二匹は虫を食べ終わると顔を見合わせた。 「これからどうする? ぱちぇはかりにいってくるわ」 「れいむはおるすばんしているよ!」 よろしくね、と言って長ぱちゅりーは去って行った。 長ぱちゅりーが洞窟を出ると、れいむは狭い洞窟の中にぽつんと一人取り残された。 「おるすばんさんはゆっくりしてるね! れいむもゆっくりするよ!」 日はまだ高い。 外の日差しが洞窟の入り口から斜めに入ってきて、地面をわずかに切り取っている。 れいむのあげた声は、洞窟の壁に反響して自分の耳に帰ってきた。 れいむは特にやることがなかった。 もみあげを意味もなくぴこぴこさせたり、のーびのーびしてリボンを洞窟の天井にくっつけたりするが、やがて飽きた。 半分うつろになった目でぼんやりと外を眺めていると、一匹のゆっくりが入口から顔をのぞかせた。 「おさはいるかみょん?」 凛とした声だった。 小ざっぱりとしたみょんが洞窟を覗き込んでいる。 リボンはぱりっとして傷一つなく、銀色の髪はさらさらとゆれ、一本一本が日光に反射してきらきらと輝いている。 逆光の中でもなお美しいその姿に、れいむは一瞬我を忘れていた。 「誰だみょん!」 みょんが叫んだ。 長の住処にいる怪しいゆっくりに一瞬驚いた顔を見せたが、 すぐにれいむを見据えて厳しい顔つきになった。 怪しい動きをすれば体当たりが飛んできそうな雰囲気だった。 れいむは慌ててリボンを揺らしてみょんによく見えるようにした。 「れいむだよ、れいむ! おさのおうちにいっしょにすんでるんだよ!」 「あ……れいむ、あのまりさのつがいの……」 みょんは表情を緩めると、悲しげな顔になった。 「ごめんだみょん。みょんはあのとき、みんなといっしょに 逃げてたみょん。 にんげんに立ち向かったれいむはすごいみょん」 れいむはぽかんとしていた。 実際は何が何やらわからず、その場に残っていただけだったのだが、 いつの間にか群れではそういう評判が広がっていた。 もともと餡子脳で都合のいいことしか覚えられないゆっくりたちだから、 れいむを人間の襲来でつがいを失った悲劇のヒロインと捉える向きもあった。 れいむはあの後一晩まりさのいた巣で過ごした後、長の洞窟に移ったため、 そんな噂があることは知らなかった。 美ゆっくりにほめられて悪い気はしないれいむは、つい調子を合わせた。 「そ……そうだよ! にんげんはつよかったけど、なんとかおいかえしたよ!」 「まりさのことは、ざんねんだったみょん」 「ゆ……」 「元気をだすみょん。ゆんごくのまりさも、れいむをたすけられてよかったとおもってるみょん」 れいむの顔は曇った。 やはり、まだまりさを失ったダメージが残っているようだった。 みょんは空気を変えようと続けた。 「これ、みょんはひとりものだから、いつもかりをするとご飯さんがあまるみょん。 おさに持ってこようとおもったけど、れいむからおさに渡してほしいみょん」 「ゆっくりわかったよ!」 みょんはリボンの隙間から木の実を取り出してれいむに渡した。 長ぱちゅりーから要求したことは一度もなかったが、こうして若い健康なゆっくりは、たいてい長のところにご飯を運んでくるのだった。 用事が済むとみょんは帰って行った。 去り際に、みょんの残したホワイトチョコの甘い香りが洞窟の中にふっと漂った。 れいむは、会ったばかりのみょんがなんだか気になっていた。 呆けたような顔でみょんの出て行った入口を眺める。 ぼんやりと呟いた。 「みょん……どこにすんでるんだろう? またあえるかな?」 長ぱちゅりーが帰ってくると、れいむはみょんが来たことを報告し、木の実を渡した。 「あのこ はいつも、ご飯をもってきてくれるのよ。 つがいもいないのに、よくやってくれてるわ。すごくゆっくりしたゆっくりよ」 「またくるかな、ぱちゅりー」 「たいようさんが しずんで、またのぼってくればあえるわよ」 「ゆわー……ゆゆ、なんでもないよ!」 れいむは慌ててもみあげで口を塞いだ。 ぱちゅりーにみょんのことが気になっていると知られるとなんだか恥ずかしい気がした。 ぱちゅりーはきょとんとしていた。 その次の日、長ぱちゅりーが出かけ、れいむが巣に残っていると、みょんがやってきた。 「おさはいるかみょん?」 「みょん、ゆっくりしていってね!」 れいむは木の実を受け取ると、みょんに聞いてみた。 「みょんはいつからご飯をとどけにきてるの?」 「みょんは このあいだ、はるさんがきたときに ひとりだちしたみょん。 さいしょは うまくむしさんを とれなかったけど、だんだんご飯がいっぱいとれるように なってきたから、 おさにわけて あげるんだみょん」 「みょんはすごくゆっくりしてるね!」 れいむが思わず叫ぶと、みょんは面映ゆいような表情で、 「おさはみんなのやくに立ってくれてるみょん。みょんたちもおんがえししなきゃいけないみょん」と言った。 れいむは、みょんのその言葉を健気だと思った。 自分のことはさておいて、一人で狩りをして群れの事も考えているみょんを素直に偉いと思った。 「れいむは、かりができないからみょんはすごいとおもうよ!」 「そんなことないみょん……」 みょんの白い皮がさらに白くなり、白いチョコが透けて見えた。照れているようだった。 それを隠すようにやや強い口調で、 「れいむはおさとすんでるみょん?」と訊いた。 れいむは少し顔を背けた。 「うん……おうちにいてもかなしいし、かりもできないから…… おさにはほんとに良くしてもらってるんだよ」 「そうかみょん、おさはやっぱりもりのけんじゃだみょん」 みょんは長のことを尊敬しているようだった。 れいむも頷いた。 長のところで暮らすことも始めは不安だったが、分け隔てなく接してくれる長ぱちゅりーは優しかった。 まりさの辛い思い出も、消えないけれど楽になっていくような気もした。 「じゃあ、もういくみょん」 「あ……」 とれいむが声を上げたが、すぐに「なんでもないよ!」と言ってごまかした。 みょんはにっこり笑って跳ねて行った。 れいむは「また明日も来るの?」と聞きたかったが、何となくうまくいえずに飲み込んでしまった。 れいむは、寂しかったのだった。 ぱちゅりーがでかけてしまってからは話し相手もおらず、日中は洞窟の中でじっとして過ごす。 ゆっくりしてはいるが物足りなかった。 そんな生活に現れたみょんが、まぶしく見えた。 次の日、外は大雨だった。 うっすらと雨に煙る木々が森の奥まで続いている。 その景色を見ていたれいむのあんよに、洞窟の入り口に降りかかった雨粒が入り込んできてぶつかった。 「ほら、そんなところにいるとぬれるわよ」 長ぱちゅりーが洞窟の奥から声をかける。 冷たく湿った空気がれいむの肌を撫でてひやりとした。 れいむは洞窟の奥に戻る。 「ぱちゅりー、きょうはおそとにでれないね」 「しょうがないわ、いちにちくらい何も食べなくてもしにゃしないもの、むきゅ」 長ぱちゅりーは目を閉じてじっとして、空腹を抑えている。 エネルギーをなるべく消費しないようにしていた。 そのすぐ後ろには、木の実や乾いた葉が山と積まれている。 れいむがそれに眼をつけた。 「ぱちゅりー、おなかすいたよ! そこのごはんさんたべようね!」 「だめよ、れいむ」 「どぼじで!?」 「これは、ご飯さんがとれなくてみんな おなかがすいたときのためにあるの。りかいできるかしら?」 「ゆぅ……でも、このままじゃおなかがすきすぎてしんじゃうよ!」 ぱちゅりーはため息をついた。 「そうね。あしたも雨さんがふっていたら、仕方がないからすこしだけ食べましょう。 でも、ほんとにすこしよ」 「ゆっくりわかったよ……」 れいむは空腹で目が回りそうになっていた。 そういう時は、だんだん気分が滅入ってくる。 れいむは物思いに沈んでいった。 まりさの最期の場面が、れいむの餡子脳に蘇ってきた。 人間に連れ去られて、大きなすぃーに乗せられるまりさ。 あの恐ろしい人間にさらわれたら、もう助かることはないだろう。 人間のすみかで苦痛を与えられているまりさを想像して、 れいむはゆっくりできない悲しい気持ちになった。 まりさがいた頃はいつもゆっくりしていた。 家の中で時間を過ごしていても苦にならなかった。 やがて授かるおちびちゃんや、自分の得意な子育てのことなどをあれこれと考えているうちに、時間は過ぎた。 そのうちまりさが帰ってくると、心底幸せな気持ちになった。 ご飯を食べて、すーりすーりで愛情を確かめ合い、眠りに就いた。 ここにまりさがいてくれたらと、真剣に思った。 何でもないゆっくりの普通の暮らしが貴重なものだったということを、れいむは今頃になって理解した。 今は、あの頃一人で待っていたときの何倍も辛い。 れいむは幸せな記憶に浸ったまま目を閉じて、倦怠感に身を委ねた。 それは心地よく感じられ、すぐに意識を失った。 太陽が昇った。 日差しが葉の間を抜けて森に差し込む頃、 まだぬかるむ地面を器用に水たまりをよけながらみょんが跳ねて来た。 疲労と空腹でうとうとしていたれいむは、温かい日差しそのままのみょんの声を聞いて目覚めた。 「おさ、だいじょうぶかみょん? れいむ、ゆっくりおはよう。」 みょんが洞窟の入り口に姿を見せる。 朝日に照らされたみょんの姿が、れいむには救いの神のように見えた。 餡子の中に温かいものが広がっていくのを感じる。 みょんの視線の先を振り返る。 洞窟の奥で漬物石のようにじっとしていたぱちゅりーが目を開けた。 「ゆっくりおはよう。わざわざわるいわね、みょん」 長ぱちゅりーも、何も食べずに過ごしたようだった。 口から出たのはか細い声だった。 背後の木の実は減っていない。 「おさはだいじょうぶかとおもって、雨さんがあがったらすぐにこっちにきたみょん。 とちゅうでご飯をとってきたみょん」 そう言うと、頭の上に載せていたものをどさりと地面に下ろした。 頭のないイモムシだった。 節がいくつもあって、丸々と太っている。 それを見たれいむが少し元気を取り戻して叫ぶ。 「ゆわぁ~、おっきいむしさんだね!」 「あなた、ご飯は?」 「いそいできたから、まだだみょん。これからみょんのぶんをとるみょん」 「むきゅ、ありがとうね」 長ぱちゅりーが申し訳無さそうに言う。 「これくらい、何でもないみょん。それよりおさがお腹をすかせてないかしんぱいだったみょん」 「そうね、ありがとう。いただくわ。れいむも食べましょう」 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 れいむはすでにイモムシを顔を上げずに夢中でかじっている。 みょんはれいむのそんな姿を見てくすりと笑った。 「じゃあ、これで」 みょんは帰ろうとした。 振り向いて自分の巣に帰ろうとしたあんよが、一歩目を踏み出す時によろめく。 れいむが顔を上げてみょんに近づいた。 「みょん、だいじょうぶ?」 「へいきだみょん……」 みょんの顔は蒼白になっている。 れいむたちと同じように昨日一日何も食べずに、その上長の洞窟まで急いで来たのだから当然だった。 返事をする口元もおぼつかない。 それを見た長ぱちゅりーは、後ろの山から木の実を少し取った。 みょんに渡す。 「むりしないで。これをたべなさい、むきゅ」 「これは、むれのみんなが こまったときの、ご飯だみょん?」 「そうよ。お腹が空いてうごけないときに たべるの。 今のあなたにぴったりじゃないかしら?」 みょんはうなずいた。 お礼を言って木の実を口に詰め込むと、味わって噛み締める。 口の中が乾いていて食べにくかったが、何とか飲み込んだ。 腹がくちくなると、急激に眠気が襲ってきた。 みょんは半目でうとうとしながらぱちゅりーにもう一度お礼を言った。 「とってもおいしいみょん……。おさ、ありがとうだみょん……」 「みょんははたらきものね。すこしくらい ゆっくりしてもばちはあたらないわよ、むきゅん」 「でも……」 みょんは何となく遠慮してしまった。 すると、今まで黙っていたれいむがいきなり「ゆっくりきいてね!」と叫んだ。 何ごとかと思ったみょんと長ぱちゅりーが振り向く。 れいむの開いた口から、歌声が聞こえてきた。 れいむは歌を唄った。 子守唄のような、ゆっくりしたテンポの歌だった。 ゆっくりたちは、少しの間聞き入った。 それは人間が聞いても平板な一本調子の音に過ぎない。 だが洞窟の中のゆっくりたちは心地よさそうな顔をしていた。 れいむもれいむなりに、みょんを心配していたのだった。 長ぱちゅりーがみょんを見ると、いつの間にか安らかな顔で眠っている。 ぱちゅりーはむきゅとひとつ息をついた。 自分も昨日から何も食べていないことを思い出す。 みょんの持ってきたイモムシを食べようと辺りを見回した。 洞窟の中のどこにも見当たらなかった。 歌い出す前に、れいむが全て食べてしまっていた。 「れいむ……やったわね……」 「ゆゆ? れいむのおうたをきいてゆっくりしてね!」 長ぱちゅりーは絶句した。 れいむのことを褒めればいいのか、呆れればいいのか、怒ればいいのか、わからなかった。 当のれいむは悪びれずに歌い続けている。 「むっきゅぅぅぅぅ!」 やりきれない叫びが歌声を掻き消して、洞窟の入口から森へと響いた。 3 それかられいむとみょんは長の巣で、前にも増して頻繁に話すようになった。 長ぱちゅりーは狩りに出かけることが多くなった。 今まで長ぱちゅりーが狩りに出かけるのは、餌が足りない場合に限られていた。 何らかの事情でご飯を届けに来るゆっくりが来れなかった場合に、普通のゆっくりのように狩りに出かけていた。 しかしれいむが居候するようになってからは、二匹分の口を養うために頻繁に狩りに出ている。 今日も長ぱちゅりーは狩りに出かけている。 長ぱちゅりーがいない間に、二匹は親密の度合いを深めていった。 「すーりすーり、しあわせー!」 二匹は、体を寄せ合ってほおをすりつけあう。 周りが目に入らないほど至福の表情をしている。 「ゆゆ~ん、きょうもきてくれたんだね!」 「れいむのかおがみたかったみょん」 二匹の間には、べたべたの餡子のような時間が流れていた。 体をぴったりくっつけて、どうでもいいようなことを喋っている。 お互いに目があうと、恥ずかしそうに視線をそらした。 みょんが思い出した風にリボンを揺らした。 そこから木の実が転がり出てくる。 「最近、おさへのご飯があとまわしになってるみょん。 おさにわたしておいてほしいみょん」 れいむは少し不機嫌になった。 「みょん、ご飯さんなんてとってるじかんがもったいないよ!ふたりはもっともっとあいしあいたいんだよ! こんどからご飯さん持ってこなくていいから、ちょくせつきてね!」 みょんは困惑した。 「でも……おさには むれのみんなが おせわになってるから、ご飯をとどけるのは あたりまえのことだみょん」 「どぼじでそんなこというの!? れいむはみょんをあいしてるんだよ! ふたりのじかんが かりでなくなっちゃうのが いやなんだよ! みょんはれいむのことあいしてないの!?」 面と向かって愛していると言われて少し照れるみょんだったが、何とかれいむをなだめようとした。 「れいむのことはもちろん だいじだみょん。でも、おさがこまってしまうみょん」 「れいむとおさとどっちがだいじなのぉ!」 れいむは子ゆっくりのように聞きわけがなかった。 ぴょこぴょこと地団駄のようなものを踏んで、もみあげを上下させながらその場で飛び跳ねる。 みょんは、れいむのこんな姿を見たのは初めてだった。 「も、もちろんれいむだみょん。だからなかないでほしいみょん」 顔を歪めてしゃくりあげるれいむに、みょんは優しく話し掛けた。 「みょんもれいむのことが好きだみょん。でも、かりをしなかったら、おさのところにくるこうじつがなくなっちゃうみょん?」 みょんはれいむが納得しそうな理由を言ってみた。 するとれいむは機嫌が良くなったようだった。 いきなり顔を上げて、ぱあと顔を輝かせる。 「そうだよねっ! ひめられた ふたりのかんっけいは いっそうはげしく もえあがるんだよ!」 よくわからなかったが、れいむが元気になったのでみょんはほっとした。 「じゃ、みょんは帰るみょん。そろそろおさも帰ってくるし」 「ぱちゅりーにみつかったらたいへんだよ! ゆっくりしていってほしいけどまたね!」 二匹はどんどん仲が良くなっていった。 結局みょんは狩りをやめる。 れいむがあまりに頼むので、しぶしぶ承知したのだった。 その代わり、みょんはれいむに狩りを教えることにした。 長ぱちゅりーがあさごはんを食べているうちに洞窟に来て、れいむを呼ぶ。 二人きりになれるのが嬉しいのでれいむは張り切って出かけていく。 れいむがこれから一人で生きていくのに困らないように教えるというみょんの発案だった。 (あらあら、すっかりなかよしさんね、あのふたり) 長ぱちゅりーも、今度はみょんが強く言うので、狩りに出かけるのをやめた。 体が弱い長のことを心配しているようだった。 自分が長の分もとってくるからと張り切っていた。 ぱちゅりーもそれを承知した。 れいむが自分のご飯は自分で取れるようになったので問題はなかった。 今までどおり、何とか暮らしていける。 長ぱちゅりーはみょんのことを信頼していたので、口出しはしなかった。 何より、洞窟の中で塞ぎがちだったれいむが、毎朝狩りに出かけて元気そうに帰ってくるのを見て安心していたのだった。 (みょんになら、むれをまかせられるかもしれないわね) そんなことさえ、長ぱちゅりーは思い始めていた。 長ぱちゅりーはここ数日、狩りに出かけているときに、自分の体力の衰えをひしひしと感じていた。 美味しそうな木の実を見つけて持ち帰ろうとしても、その重みがずしりと頭にのしかかった。 かつては飛び回る蝶々くらいはおさげで捕らえられたものだったが、 今では葉の上の幼虫や地面をのろのろ這うイモムシくらいしか捕れなくなっていた。 引退の時期が近づいてきたと長ぱちゅりーは感じていた。 空がにわかに曇り始める。 灰色にぼやけた空から雨が降り出した。 しのつくような雨が、二匹を足止めしていた。 狩りに出かけたれいむとみょんは、長の洞窟には帰らずに、みょんの巣に来ていた。 途中で急に雨に降られて、近い場所にあったみょんの巣に駆け込んだのだった。 二匹は地面から張り出した木の根が作る屋根の下にちょこんと収まっていた。 土に埋まっていた根が雨によって土が削られ、露出している。 れいむは巣に入ったときから異様な雰囲気を漂わせていた。 みょんの方をちらちらと見てそわそわと落ち着きなくあんよを持ち上げては落としている。 「おさ、しんぱいしてるみょん。はやく、雨さん やんでほしいみょん」 「そんなことよりすーりすーりしようね!」 「ゆっ? でも」 「いいんだよ!」 れいむが隣にいるみょんに体を近づける。 「ゆふぅ、みょん、みょん」 「ゆゆゆ、れいむどうしたみょん? やめるみょん!」 れいむは我慢の限界だった。 実ゆが風で落ちてしまって以来ずっとすっきりしていない。 その後人間が来てすっきりをするまりさがいなくなってしまった。 それ以来、どたばたしていて忘れていたすっきりしたい気持ちが、急激に頭をもたげてきたのだった。 今にもれいむはみょんを襲おうとしていた。 れいむの目は血走ってみょんの白い皮を凝視している。 興奮で荒くなった息がみょんの顔にかかった。 「みょんのおはだすべすべだよ……もうがまんできないよ!」 れいむの表面からは、うっすらと甘い分泌物がにじみ始めていた。 みょんの白い肌になすりつけると、よりいっそう滑り始める。 れいむがみょんを一方的にすっきりさせる形になった。 みょんは体をよじって逃れようとするが、大きな動きができない。 半ば上から押さえつけるようにれいむがのしかかっていた。 「ゆっ、ゆっ、すっきりしようね!」 「れいむ、こんなのへんだみょん!」 「なにいってるのぉ! みょんはれいむのことあいしてないのぉぉ!?」 れいむは動きを止めて凄い形相で叫んだ。 一瞬みょんはびくりとして抵抗を止めた。 「そ、そうじゃないみょん、でも、こういうことは、もっとゆっくりしてから……」 「そんなことないよ! おそすぎたくらいだよ! ふたりのあいっじょうをたしかめるのになんにもわるいことなんてないよ!」 「み、みょん……!」 れいむは再び激しく動き始めた。 たぷんたぷんとあんこが打ちつけられて揺れる。 みょんは目を閉じてじっと耐えている。 森には雨音が静かに囁いている。 その中に、れいむのあげた頓狂な声が長く伸びた。 「すっきりー!」 雨は翌日になっても降り続いていた。 長の洞窟ではぱちゅりーが一匹で雨の止むのを待っていた。 二匹は帰ってこない。 みょんもれいむも姿を見せなかった。 長ぱちゅりーは少し心配だった。 みょんはしっかりしているが、れいむはお調子者だ。 ふたりっきりになって、もしかしたらすっきりしてしまったかもしれない。 つがいになるかどうかはわからなかった。 れいむには赤ゆがいない。 れいむがまりさとの間に子供を設ける前にまりさは人間に連れ去られてしまった。 風で実ゆが落ちていなければ、あるいはしんぐるまざーとしてのゆん生を歩んでいたかもしれなかった。 しかしれいむとみょんはすでに出会ってしまっていた。 若い二匹を止められるものは群れにいなかった。 長は再び外を見て、溜息をついた。 みょんの家はあまり上等な巣ではなかった。 柔らかい土は雨を素通りさせ、木の根を潤し、れいむの皮を濡らしていた。 れいむは悪態をついて湿った壁から離れた。 あまり長い間触れているとふやけてしまいそうだった。 隣ではみょんがじっと空を見あげている。 その頭には茎が生え、実ゆが何匹か寒々しい空気にさらされてかすかに揺れていた。 れいむはみょんのほうへ近づいた。 「れいむとみょんのおちびちゃんはとってもゆっくりしてるね!」 みょんの頭上の実ゆはまだ丸いお餅に目鼻がついただけの単純な作りで、 中心部にはうっすらと餡子が透けて見えていた。 その色は黒と白の二種類あり、四匹のうち三匹が黒だった。 「ゆっくりそだてようね!」 「みょん……」 みょんは目を合わさずに頷いた。 れいむに脅えているようにも見える。 先日の、半ば無理やりすっきりさせられた時の恐怖がまだ残っていた。 こうしている時のれいむは優しいのに、昨日のれいむはれいぱーのようにぎらぎらした目ですっきりしようとした。 みょんは何かの間違いだと思おうとした。 急にあんな風に豹変するなんて、れいむの優しい性格からは考えられない。 きっと、初めてのすっきりだったから少し興奮してしまったのだろう。 現にれいむは、何事もなかったかのようにふたりのおちびちゃんを祝福してくれているし、 雨が止んだら、動けないみょんとおちびちゃんのために狩りに行ってくれることになっている。 そうだ、ちょっと興奮してしまっただけなんだ。 みょんが赤ゆのころのかすかな記憶に、両親がささいなことで噛みつきあって大喧嘩したことがあった。 ふたりとも翌日にはけろりとして仲直りしていた。 多分、つがいにはよくあることなんだろう。 みょんは、自分に檄を飛ばした。 これくらいで自分がくよくよしているのを見たら長も呆れてしまう。 もっとしっかりしなくては。 隣では、れいむがまた歌を唄っていた。 雨が上がった。 長ぱちゅりーは張り切っていた。 れいむの暴走など知らずに、みょんの巣へ向かう。 みょんに長の心構えを色々と話して聞かせようとしているのだった。 長ぱちゅりーは、自分の後を継げるのはみょんしかいないと最近強く感じている。 当然みょんも承知してくれるものと思っていた。 長ぱちゅりーは、雨上がりの土の上を歩いている。 遠くからみょんが巣の中に居るのを見つけた。 近づくにつれ、巣の中にいるみょんの様子がおかしいことに気付く。 みょんは長ぱちゅりーに気がつくと、顔をそちらに向けて笑った。 その頭には大きな茎が生えていた。 長ぱちゅりーは仰天して跳びあがった拍子に水たまりにあんよを突っ込んでしまった。 巣の中から出てきたみょんが駆け寄ってきて、長を助け出す。 「しっかり、おさ」 「む、む、むきゅ……」 泥まみれになって水たまりから引っ張り出すと、みょんは長にたずねた。 「わざわざ来てくれてありがとうだみょん、きょうはどんなごようだみょん?」 ぱちゅりーは、泥を吐き出しながらしかめっ面で答える。 「ありがとう、むりしないで。おちびちゃんがおちちゃうわよ。 それより、れいむとすっきりーしたのね」 みょんははっとした顔になって、ゆっくりと恥じらいを含んだ微笑みを浮かべた。 「いいのよ、だれもすっきりするな なんて言うゆっくりはいないわ。 でも、あなたからすっきりしたいと言ったのかしら?」 みょんは首を横に振った。 「そう、やっぱりね。とにかく中に入りましょう」 巣の中は水たまりと大して変わらなかった。 乾いたところを見つけて長を座らせると、みょんも腰を落ち着けた。 「きょう来たのはね、あなたにそうっだんがあってきたのよ」 「そうっだん?」 「ゆゆ、ふたりともなにはなしてるの? ゆっくりきかせてね!」 れいむが口を挟んできた。 にっこり笑ってみょんと長ぱちゅりーの間に割り込んでくる。 基本的に寂しがり屋でのけ者にされるのが我慢ならない性質だったので、みょんたちの話に興味はないが聞いてみたのである。 「あなたにはかんけいのないおはなしよ」と長ぱちゅりーは一蹴した。 「どぼじでぇぇ!」 「ごめんだみょん、れいむ。ちょっとそこらへんでうろうろしてきてほしいみょん」 「ゆゆゆ! もうおうちかえる!」 れいむは出て行く素振りを見せた。 木の根の下から出て少し跳ねたところで振り向く。 そしてまた戻ってきた。 「ゆっ、れいむのおうちはこっちだったよ!」 二匹はぽかんとしていたが、みょんが「おさのじゃましないならいいみょん」と言ったので結局一緒に話をすることになった。 と言ってもれいむはそこに居るだけで、話すのは長ぱちゅりーとみょんだった。 長ぱちゅりーは気を取り直した。 少し間をおいて、 「ぱちぇもそろそろ、としをとってきたわ」と言った。 「まだまだ元気だみょん」 「ありがとう、でもね、かりもできないゆっくりが、みんなのおさになってはいけないわ」 みょんは長が何を言っているのかわからなかった。 「このあいだ、いもむしをとろうとしたら、にげられたわ。 べつのはっぱをたたいてしまたの。もうめがわるくなってきてるのね」 「み、みょん」 長ぱちゅりーはいきなりみょんを見据える。 その勢いにみょんは少したじろいだ。 「いい。おさは、じぶんのことより むれのみんなのことをかんがえられる しっかりしたゆっくりでなくては つとまらないのよ。」 「みょん?」 「ぱちぇは、あなたがそうだとおもってるわ」 みょんは驚いた顔をさらにぽかんとさせた。 「あなたをつぎのおさににんっめいするわ。りっぱにやってちょうだい」 「ちょっとまつみょん!」 ばちゃばちゃと水しぶきを跳ね散らしながら長に近寄るみょん。 頭の茎が危なっかしく揺れる。 「みょんには むりだみょん。もっとおさに ぴったりなゆっくりが いるはずだみょん」 「いいえ、ぱちぇはもうきめたわ。みょんがいやだといっても おさになってもらうわ」 「み、みょん……」 長の命令は絶対だった。 みょんは一瞬言葉に詰まるが、ぐっと唇を引き結んだ。 「むれのみんなにきくみょん。だれがおさにぴったりなのか、 むれのみんなのことをかんがえるなら、そうするべきだみょん」 今度は長が言葉に詰まる番だった。 驚いたような顔でみょんを見る。 みょんも、不遜にならない程度に強い視線で長を見返した。 やがてぱちゅりーがふっと息を吐いて「まけたわ」と言った。 「あなたのいうとおり、むれのみんなをあつめて、おさになるゆっくりをきめましょう。 あなたがえらばれたら、かんねんするのよ?」 「みょん!」 みょんは爽やかに答えた。 れいむは退屈そうに聞いていた。 水たまりを叩いて波紋を眺めたり、蝶々を追ってあちこち動き回るので、 話している長ぱちゅりーにとっては鬱陶しいことこの上なかった。 話が終わったようだと察すると、みょんに話しかけてきた。 「みょんどうしたの? おさになにかいわれたの?」 「ううん。でも、おさになってくれってたのまれたみょん。 みょんはみんなにきいたほうがいいとおもうっていったら、おさがしょうちしてくれたみょん」 「ゆゆゆ? だれでもおさになっていいの?」 「えらばれればのはなしよ。むきゅ」 長ぱちゅりーが注釈を入れるが、れいむは聞いていなかった。 期待を顔に浮かべて叫ぶ。 「れいむもおさになるよ! おさになれば、もっといっぱいごはんがたべられるよ!」 (それに、みょんにもっとすきになってもらえるよ!) 「れいむがおさに?」 長ぱちゅりーは唖然とした。 「みょん、いいとおもうみょん!れいむはむれの英ゆんだみょん! みんなさんせいしてくれるとおもうみょん!」 みょんが賛成する。 つがいのれいむが立派なゆっくりになることが嬉しかった。 「むきゅ、じゃあぱちぇはみんなにしらせてくるわ。おかのうえにあつまってちょうだい」 長ぱちゅりーは釈然としない表情で去って行った。 途中で帽子に傷のあるまりさと会うと、今の話を伝え、傷まりさは群れ中に伝えた。 そうして数時間後には、群れ中のゆっくりが丘の上のイチョウの木の下に集まっていた。 全ゆんがこの広場に集まるのは、人間が来た時以来だった。 三十匹前後のゆっくりが、木の根元にいる長ぱちゅりーたちを取り囲むように半円を作っている。 長ぱちゅりーの右側には、長に名乗りを上げたゆっくりたちが立っている。 みょんとれいむと、ちぇんが一匹だった。 長ぱちゅりーは、大きくはないがよく通る声で話し始めた。 ざわざわとお互いに喋っていたゆっくりたちが静かになる。 「そろそろぱちぇはおさをやめなくてはならないわ」 ざわめきが再び大きくなった。 少し待ってから長ぱちゅりーは続ける。 「あたらしいおさになるゆっくりをみんなにえらんでもらうわ。 ここにいる さんにんのなかから えらんでちょうだい」 そう言って長ぱちゅりーは隣にいるみょんのほうを見た。 「こうほは、このみょんと……」 視線が右に流れて行って、次のゆっくりを捉えた。 「れいむと」 れいむは、相変わらず期待に満ちた顔で待っている。 「ちぇんよ」 ちぇんは、話を聞いて立候補したまだ若いゆっくりだった。 緊張してがちがちになっている。 「むれのみんなは たくさんよりたくさんいるから、かぞえきれないわ。 だから、おさになってほしいゆっくりのなまえをよんだときに、一回だけこえをあげてちょうだい。 その声の大きいゆっくりが おさということにするわ」 今や広場はゆっくりたちの囁きでうるさいほどだった。 どのゆっくりも、小さな頭を必死にめぐらせて、群れの行く末を担う長を思い浮かべている。 長ぱちゅりーがざわめきの中に錨を投じるように言葉を発した。 「決まったかしら?では、ちぇんをえらぶというもの」 広場は少し静まり返った。 ちぇんはあまり人気がなかった。 ちらほらと「ゆっ」「ちぇぇぇぇん」などの声が聞こえてくる。 「では、みょんをえらぶもの」 先ほどより多くの声があがった。 何匹かのゆっくりは、みょんのしっかりした性格を知っていて、声をあげていた。 見た目が美ゆっくりだということも大きかった。 長ぱちゅりーは満足そうにうなずいている。 「では、れいむをえらぶというもの」 わっと広場中から歓声が上がった。 次々とゆっくりたちが飛び跳ね、れいむの名を叫んでいる。 群れの大半が声をあげていた。 今までで一番大きい音だった。 勝敗はあっさりと決した。 当のれいむはぽかんとしている。 苦々しげに長ぱちゅりーが言った。 「おさは、れいむにきまりよ」 ちぇんはがっくりとうなだれて「わからないよー」と呟いた。 自信があったのだろうが、長にはまだ早かったようだった。 ぱちゅりーも期待を裏切られてショックを隠し切れなかった。 落胆した表情だった。 みょんの方を見ると、こうなることが分かっていたように微笑んだ。 「ぜったい、あなたがえらばれるとおもったのに」 ぱちゅりーはあきれたのと悔しいのと半々の顔でみょんを恨めしげに見た。 「れいむはにんげんに たちむかった英ゆんだみょん。とうぜんだみょん」 みょんはあくまでれいむが長になることを疑っていなかったようだった。 もう長ではなくなったぱちゅりーはがっくり老け込んだようだった。 元から小さい体がさらに小さくなって、しぼんでしまいそうに見えた。 もはや結果は出たのに、未練がましく弱々しい声で言う。 「みょんがおさになってくれるとおもったからこそ、ぱちぇはおさをやめたのよ?」 「みょんは おさなんてがらじゃ ないですみょん」 「ぱちぇは、れいむが そうだともおもわないわ」 ぱちゅりーはぴしゃりと言う。 声だけが一瞬かつての張りを取り戻したようだった。 「だいじょうぶだみょん。れいむはやさしいゆっくりだみょん。 きっとむれのためになってくれるはずだみょん。みょんもそばでそれをおてつだいするみょん」 「そうね。そうだといいわね……がんばるのよ、むきゅ」 ぱちゅりーは諦めたのか、みょんの言葉を受け入れた。 みょんは満面の笑顔で頷く。 「みょん!」 歓声は鳴り止まず続いている。 れいむはいつの間にか引きずり下ろされて、胴上げのようにゆっくりたちの間を運ばれていた。 その笑顔は、振って湧いた歓喜と栄光に酔っているように、ぱちゅりーには思えた。 4 数日後。 長の洞窟の前で子ちぇんが遊んでいる。 ちょうちょを追いかけていて、洞窟の入り口に気付いた。 ひらひらと飛ぶちょうちょは、洞窟の中に入って行った。 恐る恐る中に入ろうとすると、後ろから声をかけられた。 「ゆゆ? ちぇんのおちびちゃん、なにやってるの?」 「わ、わきゃらにゃいよぉー!」 子ちぇんは後ろに立っていたれいむを見るなり一目散に逃げ出してしまった。 新しい長のことは、まだよく知られていないようだった。 子ちぇんは臆病なので、長を勝手に怖いゆっくりと思い込んでいた。 代替わりしたれいむはこの洞窟を受け継ぎ、ぱちゅりーは近くのもっと小さい巣に移った。 それからみょんとの新しい生活が始まった。 長の仕事は想像以上に退屈だった。 基本的に、何か事件が起きなければ長がリーダーシップを発揮する機会はない。 群れの全ゆんがめいめい狩りをこなし、その日を無事に暮らしている限り長はそれを見ているだけでよかった。 群れは何の変化もなかった。 日々成長していく、洞窟の周りの草木がわずかずつ背を伸ばしているだけだった。 いや、変化はあった。 みょんの頭に実った実ゆが着実に成長していた。 少し大きくなり、目も口もはっきりわかるようになってきた。 皮も厚くなりうっすらと薄桃色に色づいている。 小さな小さなリボンが三匹の頭についている。 残りの一匹はみょんに似て、黒い新芽のようなリボンが頭からちょこんと生えている。 みょんはその姿を見つめているだけで幸せだった。 無理矢理すっきりしたことによるわだかまりは残っていなかった。 れいむは、今はむしろ以前よりみょんに優しいほどだった。 呼吸に合わせて揺れる茎からすずらんの花のように連なって実ゆがぶら下がっている光景を見ると、溜息が漏れる。 れいむが狩りに出かけている間も寂しくなかった。 「ゆゆ、ごはんとってきたよ」 れいむは洞窟に入った。 疲れた様子でリボンと頭の間に木の実を乗せている。 「おそかったみょん? どうしたみょん」 「ゆっ、ちょっとすばしっこいむしさんがいたんだよ! くろうしてつかまえてきたんだよ!」 みょんに教わったとはいえ、れいむは何しろあまり狩りが得意ではなかった。 普段の倍以上かけて狩りをした割に、頭の上のご飯の量は多くなかった。 むしろやや少なめだった。 しかしみょんが動けないから、自分がとりに行くしかないのである。 長の生活は、思ったよりゆっくりしていない。 れいむはそんなことを思っている。 それは無計画にすっきりしたゆえの苦労だったが、れいむはそんなことをいちいち覚えていなかった。 「みょんがうごければ、いっしょにかりにいけるみょん。れいむ、ごめんだみょん」 「なにいってるのぉぉ! みょんは おちびちゃんをゆっくりそだててね! むりしないでね! おちびちゃんが おちちゃったらたいへんだよ!」 「ゆゆ、わかったみょん」 みょんはれいむの優しさを見たような気がした。 おちびちゃんのこととなると、れいむは途端に大袈裟になる。 それがみょんはおかしくもあり、大切にしてくれていると思うと、嬉しくもあった。 その時、誰かが入口の前に来た。 洞窟の入口から入ってくる光が遮られる。 一匹のまりさが洞窟を訪れた。 「れいむ、いるのかぜ」 そのまりさは帽子に傷があった。 円錐形の帽子の中央あたりに長い穴が空いている。 穴の縁はほつれてぼろぼろになっていて、長い時間が経っていることを思わせた。 「ここのところ、ごはんさんが あんまりとれなかったから、れいむのところに いけなくてごめんだぜ。 ぱちゅりーは いんったいしちゃったけど、れいむにも がんばってほしいのぜ」 「ゆゆ~ん、ごはんさんはとってもゆっくりしてるね!」 れいむはよだれを垂らしながら、傷まりさの持ってきたご飯を眺めた。 みょんが後ろから傷まりさに挨拶する。 「まりさ、ありがとうだみょん。もうすぐおちびちゃんがうまれるから、とてもたすかるみょん」 「いいんだぜ。じゃあこれで」 傷まりさは去っていく。 見送るみょんの後ろで、傷まりさの持ってきたご飯を早速れいむが食べ散らかしている。 半分くらい食べたところで、急にれいむが顔を上げて叫んだ。 「ゆゆっ!」 れいむは何かを思いついたようだった。 ゆっくりの顔をした電球がれいむの頭の上で点灯してすぐに消える。 「これから、ごはんさんをもっといっぱいもってこさせるよ! そうすれば、れいむはかりにいかなくてすむよ!」 れいむは自分の思いつきに酔い知れている。 ご飯さんが手に入り、みょんに喜んでもらえる。 自分は狩りに行かずにすみ、可愛いおちびちゃんの顔をずっと眺めていられる。 どう見ても完璧な作戦だった。 「まって、れいむ」 「どぼじだのぉ!?」 「そんなことはやめるみょん」 みょんがれいむを諌めた。 いくらなんでも無茶な思い付きだった。 れいむは素晴らしいアイディアを邪魔されて不機嫌だった。 「ごはんさんがいっぱいもらえるんだよ! みょんはごはんさんほしくないの!?」 「ちがうみょん、ごはんならみょんがとってくるみょん、 みんながゆっくりできないことはやめるみょん」 「れいむはみょんにゆっくりしてほしいんだよ! それにみょんにはおちびちゃんがいるでしょ! じっとしててね! れいむはみんなにゆっくりしたおふれをはなしてくるよ!」 「ゆっ、まって……」 れいむはヒートアップしたまま巣を飛び出した。 追おうとしたみょんは、入口まで来て断念した。 目の前に、実ゆがぶらさがっていたからだ。 走ったりすれば落ちてしまう。 みょんは言い知れない不安が餡子の奥から湧き上がってくるのを感じた。 既にれいむの後姿は見えない。 群れのみんながれいむのおふれをどう受け取るか、心配だった。 日が沈みかけていた。 地平線の近くは夕陽に照らされて橙色に染まり、上に昇っていくにつれ薄い青に変わる。 そしてその上には、深い夜の色が広がっている。 みょんはうつむいていた顔をはっと上げた。 傾いた陽が差し込む洞窟で、出歩くことも出来ないまま、一日千秋の思いでれいむの帰りを待っていた。 いつの間にか目の前に立っていた影に気付いたのだった。 影はれいむだった。 逆光の中で昼に見たときと変わらない満面の笑顔を浮かべている。 頭の上とリボンの間に山ほど木の実や虫を乗せていた。 「れいむがごはんさんとってきたよ! むれのみんなにいったら、そのばでわけてくれたよ! あしたになったら、ほかのみんなもとどけてくれるよ!」 みょんは目の前が真っ暗になった。 これではみんなに飢え死にしろと言っているようなものだ。 「みょんたちにはおおすぎるみょん」 「そんなことないよ! もうすぐおちびちゃんがうまれるんだから、みょんは いっぱいたべなきゃだめだよ! れいむとはんぶんこしようね!」 れいむはみょんの前にご飯を山盛りに置いた。 みょんがそれをじっと眺めていると、れいむはどんどんもう一つの山を食べ始める。 「ひさしぶりにそとにでたからおなかがすいたよ!」 みょんは確かに空腹だった。 こうしている間にも、実ゆが少しずつみょんの餡子を吸い取って自らのものにしている。 目の前のご飯は、とてつもなく必要だった。 みょんは何度もためらった。 しかし、空腹には勝てなかった。 一度食べ出したら止まらなかった。 ご飯の山に顔を突っ込んで、夢中になって食べる。 気がついたら食べ終わっていた。 あれほどあった山が半分以上なくなっている。 みょんはますます落ち込んだ。 れいむを諌めるつもりがれいむと同じことをしてしまった。 れいむをみると、全て食べ終わってのんきそうに寝ている。 翌日れいむは狩りに行かず洞窟でごろごろしていた。 黙っていても、狩りに行くよりはるかに多くのご飯を群れのゆっくりが持ってくるからだった。 ゆっくりたちは、新しい長の苛烈な命令に戸惑いながらも洞窟に顔を見せた。 洞窟の前は集まったゆっくりたちでいっぱいだった。 「ゆわぁ、ごはんさんがいっぱいだよ!」 れいむは積み上げられた餌の前で能天気に喜んでいる。 それは、群れのみんなの一日分のご飯なのだ。 みょんは、昨夜からずっと悩んでいた。 我慢できずに言った。 「ちょっと待つみょん、れいむ」 れいむはにこにこしたまま振り向いた。 「どうしたの、みょん」 「そのごはんさんをみんなにかえしてほしいみょん」 「どぼじでぞんなこというのぉぉお!?」 「じぶんたちのごはんはじぶんでとるみょん。おちびちゃんがうまれたら、みょんもてつだうみょん。 だから、かえすみょん」 「れいむはみょんのためにやってるんだよぉぉ! かえせなんていわないでねぇぇ!」 「れいむ、おねがいだからちょっとかんがえてほしいみょん……」 れいむはなぜかその言葉にかっと来た。 恐ろしい形相でみょんに詰め寄り、怒鳴り散らす。 大きな体が、みょんにすっきりを強要した時のように、今にも押し潰そうとしていた。 「れいむはちゃんとかんがえてるんだよ! それいじょういうとおこるよ!」 みょんは、れいむの巨体が目前に迫っても一歩も引き下がらずにれいむを見据えて言った。 「おこる? おこればいいみょん! おこって、みょんもおちびちゃんもいっしょにつぶせばいいみょん! どうしたみょん? やらないみょん!?」 みょんは怒っていたのだった。 不甲斐ないれいむと、それを止められない自分に。 単なる挑発ではなく、そのときは本当にれいむを止めるためなら死んでもいいと思っていた。 もうこれ以上、れいむの情けない姿を見たくなかった。 れいむはさすがに勢いを失った。 理解できないものを見るようにみょんを見て呟いた。 「ど……どうしたの、みょん? いつもとちがうよぉ……」 みょんは無言でれいむを睨んでいる。 洞窟の外では群れのゆっくりたちが、固唾を飲んで長とそのつがいのやり取りを眺めていた。 「そ、そんなにおこらないでね! おちびちゃんもつぶれるなんていわないでね! れいむはみょんにゆっくりしてほしいんだよ! ごはんさんはかえすから、きげんなおしてね!」 「ほんとかみょん?」 緊張で張りつめたみょんの顔に、わずかに喜びの色が広がった。 れいむはそれを見逃さなかった。 「ほんとだよ! ごはんさんはかえすよ! れいむがみょんのためにかりにいくよ! そしたらふたりでむーしゃむーしゃしようね!」 れいむは、喋っているうちに自分でもその気になってきたのか、体を揺らして喜んでいる。 みょんも、それを見て安心した。 分かってくれたと思った。やはり、誠心誠意伝えれば通じるんだ。そう思った。 後ろで見ていた群れのゆっくりたちはぽかんとしている。 れいむが彼らに帰っていいというと、訝りながらもめいめいの持ってきた分をまた持って、巣に帰っていった。 そのとき、自分の分の中から少しご飯を置いていくゆっくりもいた。 みょんに同情した何匹かが、れいむ そうして残ったご飯を、二匹は仲良く分けて食べた。 充分な量だった。 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 食べているうちに、みょんは涙が出てきた。 ほっとして気が緩んだのと、群れのみんなの優しさに心打たれたのだった。 れいむは相変わらずがっついている。 さっきのことなどなかったように、能天気な顔のままだった。 みょんは、れいむらしいなと思った。 あの雨の日、洞窟で共に一夜を過ごしてから、少しも変わっていなかった。 危なっかしいところもあるが、二人で力を合わせていけば大丈夫。 みょんは、そう信じていた。 二匹はお腹一杯になるまで食べて、そのまま眠りに落ちた。 久しぶりに、安らかな眠りだった。 さらに翌日、れいむは遅くに目を覚ました。 普通のゆっくりはとっくに狩りに行っている時間だった。 昨日みょんに怒られたので、しぶしぶ狩りに出かける。 日差しが木々の間から斜めに差し込んで、鳥がさえずっている。 鳴き声に混じって、うー、うーという声も聞こえた。 うーぱっくが森の上を飛んでいた。 れいむはそれを見上げていた。 狩りを始めたものの、いっこうに見つからない。 みょんに教わった、草の上、木の根元、草むらの中などのポイントを探したが何も見つけられなかった。 れいむは狩りが下手だった。 みょんのように動き回る虫を身軽に跳ねて捕まえることなどできるはずもない。 森は豊かでも、探す者が見つけれなければないのと一緒だった。 「ゆうう……」 れいむは八方ふさがりに陥った。 みょんにああ言った手前、手ぶらで帰ることなどできない。 そもそも、相変わらずみょんは動けないので、自分がとれないからといって誰も助けてくれないのだった。 そのとき、れいむは一匹のぱちゅりーを見つけた。 少し短いリボンのついた帽子をいっぱいに膨らませて、下草の中を歩いている。 すでに狩りを終えて巣に帰るところのようだった。 「ゆゆ、あんなにたくさんとってずるいよ! れいむはぜんぜんとれないのに!」 またしてもれいむは思いついた。 リボンぱちゅりーの帽子はそうとう大きく膨らんでいる。 あれだけあるんだから、少し分けてもらっても構わないはずだ。 最近のれいむはとっても冴えてるね! そう思いながられいむはリボンぱちゅりーに近づいた。 「あら、おさ、むきゅ」 「ぱちゅりー、れいむはごはんさんとれないんだよ」 「むきゅ、たいへんね、すこしでよかったらわけてあげられるけど」 「それじゃだめだよ! みょんとおちびちゃんにいっぱいたべさせなきゃいけないんだよ! いいからぜんぶちょうだいね!」 れいむはじれったくなって、リボンぱちゅりーからご飯を奪った。 帽子をひったくると、中身を地面にぶちまける。 虫や木の実が底のない袋から飛び出して辺りに散らばった。 「むっきょぉぉ! せっかくあつめたのに! やめてぇぇ!」 「おさのめいっれいだよ! これはぜんぶれいむのものだよ! ぱちゅりーはまたあつめてね!」 「そんな……」 れいむはみょんに言われたことを全く理解していなかった。 みんなから集められないなら、ひとりずつ貰えばいいという発想だった。 当然、みょんに言われたことを守っていると思っていた。 なぜならあの場で注意されたことはそれで済んだことであり、 リボンぱちゅりーから奪うのはご飯を確保するために仕方ないと考えているからだった。 全く自らを省みないれいむのゆえの行動だった。 それからのれいむは素早かった。 地面に落ちたご飯をかき集めると、さっさと頭の上に乗せてしまった。 呆然とするリボンぱちゅりーを残して、れいむは意気揚々と去って行った。 洞窟に帰ると、みょんが迎えてくれた。 「むーしゃむーしゃしようね!」 「れいむ、もうすぐおちびちゃんがうまれそうだみょん!」 「ゆゆっ!?」 みょんは興奮している。 さっきから、実ゆがかすかに動いている。 茎の揺れではなく、自力で身じろぎしているのだった。 実ゆは元気に育っていた。 母体の栄養を吸ってピンポン玉くらいの大きさになり、今では赤や黒のリボンがはっきりとわかる。 親たちのミニチュアのように、小さな体にもみあげも、髪も、おかざりも全てが揃っていた。 「ゆふぉおお……れいむたちのおちびちゃん、ゆっくりしてるよぉ……」 れいむはまるで自分の分身を見るかのような熱い視線を実ゆに向けた。 みょんもふたりのかわいいおちびちゃんが生まれてくるのを心待ちにしている。 二匹は寄り添って、しばらく茎にぶら下がった実ゆを眺めていた。 そしてついに生まれる時が来た。 一匹の実れいむがぱちりと目を開ける。 ぶるっと一度身震いをすると、辺りを見回した。 「きゃわいいれいみゅがゆっくちうまれりゅよ!」 その顔は自分がこれからゆっくりしたゆん生を歩むことを欠片も疑っておらず、 生まれたばかりの希望とわけもない自信に溢れている。 大きな目をいっぱいに見開いて、初めて見た外の世界を余すところなく目に焼き付けようとしていた。 「おちびちゃん、ゆっくりうまれてね!」 実れいむは今まさに生まれ落ちようとしていた。 小刻みに体を震わせて、頭につながっている茎から離れるための運動をする。 「おちびちゃん、がんばるみょん」 そうこうしているうちに、他の実ゆたちも目を覚ました。 残りの実れいむが二匹揃って「ゆっくち~!」と叫び、実みょんもそれに続く。 「みんなれいむのかわいいおちびちゃんだよ! れいむににたおちびちゃんはやっぱりかわいいよ!」 「はやくうまれちゃいよ!」 「きゃわいいれいみゅがゆ~らゆ~らしゅるよ!」 「ちーんぴょ!」 実ゆたちは思い思いに体を動かしている。 早く生まれようと体を左右に揺らしたり、茎から見える光景に驚いたり、せわしなかった。 残りの実ゆたちも生まれ始めた。 茎につながった部分がぷつりと切れて、次々に地面に落ちていく実ゆたち。 れいむは一瞬恐ろしいものを見るように体をすくませたが、三匹の赤れいむが無事に降り立ったのを見ると、 この上ない至福の表情になった。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちちていっちぇにぇ!」 一匹だけその大合唱に参加していない赤ゆがいた。 実みょんはまだ茎にぶら下がったままだった。 「みょんににたかわいいおちびちゃんだね! はやくうまれていっしょにゆっくりしようね!」 実みょんはぷるぷる震えて体を揺らしているが、一向に落ちる気配がない。 「ちんぴょ!」 「どぼじだのぉぉぉ! おちびちゃんどぼじちゃったのぉぉ!」 「れいむ、おちつくみょん」 みょんが少し茎を揺らして誕生を促した。 小さく体を横にゆすると、茎の先に大きな動きとなって伝わる。 それでなかなか切れなかったつなぎ目が切れて、実みょんも地面に落ちた。 「ちーんぴょ!」 「ゆっくりしていってねぇぇ!」 同時にみょんの頭から茎がぽろりと外れて赤ゆたちの前に落ちた。 「ゆわーい!」 「きゃわいいれいみゅがむーしゃむーしゃするよ!」 「いっぱいたべてね! おちびちゃん!」 れいむは赤ゆにつきっきりになっている。 茎がなかなか食べられない赤みょんには、噛み砕いて口移しでご飯を与える。 「ぱちゅりーにおしえてくるみょん!」 みょんは巣を飛び出した。 おさとは、れいむが長になって以来会っていなかったから、挨拶がてら報告に行くつもりだった。 きっと、可愛いおちびちゃんの誕生を我が事のように喜んでくれるだろうと思い、みょんは先を急いだ。 その頃前長ぱちゅりーも、巣を出ていた。 リボンぱちゅりーがれいむにご飯を奪われたことを、前長のぱちゅりーに泣きついたのである。 前長ぱちゅりーは憤慨していた。 やはりれいむは、長になってはいけなかった。 最初からわかりきったことだったのだ。 みょんがそばにいても効果がないようだった。 月明かりの下、れいむの洞窟までの道を跳ねながら、前長ぱちゅりーは誰に言うでもなくつぶやいた。 「だから、いったじゃない……」 前長ぱちゅりーは草むらに差し掛かった。 れいむの洞窟はこの草むらを挟んで、前長ぱちゅりーが今住んでいる巣穴の向かいにあった。 草むらは広く、背の高い柔らかい草が地面を覆っている。 急いでいる前長ぱちゅりーは、草むらを突っ切った。 ほとんど同時に、みょんも草むらを突っ切っていた。 嬉しそうに前長の住む巣穴へ向かう。 二匹は、お互いの姿が見えない草むらを通って、ほんの十数メートル離れた場所を行き違いになった。 土から出たミミズがひからびていた。 みょんはそれを飛び越えて、前長の巣へ向かう。 月がそれを見下ろしていた。 れいむは、洞窟の中でぼんやりしていた。 赤ゆはお腹一杯になって、洞窟の奥でそろって小さな寝息を立てている。 暗い洞窟の中の、入口の近くだけがぽっかりと薄青い光で切り取られている。 その中でれいむはみょんの出て行った外を見ていた。 れいむはもう寂しさを感じていないことに気付いた。 今までひとりの時は、ゆっくりしていない寂しい感じに襲われていた。 だが今ではどういうわけかそれほど辛くはなかった。 それはおちびちゃんがそばにいるからなのか、みょんに出会えたからなのかはわからなかった。 人間が来たあの日の記憶は自分の餡子の中から確実に薄らいでいっているのを感じた。 外の風景に一つの点が見えた。 一瞬みょんかと思ったが、近づくにつれそれはぱちゅりーの帽子だということが分かった。 ぱちゅりーが、一体今頃何の用だろう? 前長ぱちゅりーは巣の外から、れいむに外に出るよう促した。 寝ている赤ゆを起こさないようにする配慮だった。 れいむはのそのそと這いだした。 「みょんはどうしたの?」 ぱちゅりーはまずそう言った。 「おさにほうっこくにいったよ」 「おかしいわね。だれにもあわなかったけど……」 いぶかしげな顔になるが、すぐにれいむを強い視線で見る。 「あなたにちゅうこくしにきたのよ」 「ちゅうこく?」 「どうもあなたは、おさを 好きかってにやれるものだと おもっているようね」 「ゆゆ? おさはえらいんだよ? みんなおさのいうことをきかなきゃいけないんだよ?」 「そうよ、でもそれは おさがおさのしごとを しているからよ。あなたはそれをしないで、好きかって ばかりしているでしょう」 「でも……ぱちゅりーだってごはんさんを もってこさせてたでしょぉ! れいむはぱちゅりーのやったとおりにやっただけだよ!」 「あれは、みんながしんせつでもってきてくれていたものよ。あなたがめいれいしてもってこさせるのが、いいわけないわ。 まして、ひとからごはんをうばうなんて!」 前長ぱちゅりーはリボンぱちゅりーの悲しそうな顔を思い出した。 溜息と同時に言う。 「あなたは、おさしっかくのようね」 「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉ! れいむは いっしょうけんめいやってるんだよぉぉ! みょんにごはんだってたべさせなきゃいけないんだよ!」 「あなたが、自分で かりをすればいいのよ。それとも、そんなことさえ わすれちゃったのかしら?」 「そんなことないよ! むしさんがこっちきてくれないのが わるいんだよ!」 「じゃあ きのみでも何でも さがせばいいでしょう。 こんなこともわからないようじゃ、おさとして、むれのみんなを ゆっくりさせることなんて できないわね」 「れいむはりっぱなおさなんだよ! に、にんげんにたちむかった英ゆんなんだよ! むれのみんなだって、そういってくれてるよ!」 ぱちゅりーはちょっと思い出したような表情になって、慎重に言った。 「そうかしら、それもあやしいものね。 ぱちぇは、みたわ。みんなの輪から、すこしだけちかくにいたから。 あのひ、あなたはにんげんにたちむかったわけじゃないわ。 れいむ、あなたはこわくて、うごけなかったんじゃ――」 「や……」 れいむはかつてないほど激昂した。 自分自身でも、なかったことにしていた、あの日の記憶。 周囲から英ゆんと呼ばれ、いつのまにか自分もそうだと思うようになっていった。 都合の悪いことを記憶の奥底に押し込めて、英ゆんを名乗っていた、 そのメッキが、ぱちゅりーによって乱暴にはがされてしまった。 「やめろぉぉぉ!」 「むぎょ!」 ぱちゅりーは吹っ飛んだ。 我を忘れたれいむの体当たりをまともに食らって地面に叩きつけられる。 れいむがその上に飛び乗った。 「やべろっ! やべろっ! それいじょういうなぁぁぁ!」 れいむは恐怖に突き動かされてぱちゅりーに襲いかかっていた。 その体が飛び跳ねるたびに、ぱちゅりーの口からクリームが飛び出し、体が平たくなっていく。 「むぎょ、れ、れいむ」 「れいむはっ、れいむはおくびょうなんかじゃないよ!英ゆんなんだよ!おさなんだよっ! えらばれたゆっくりなんだよ! わからずやのぱぢゅでぃーはじねぇぇぇっ!」 れいむはひたすらぱちゅりーを踏み続けた。 やがてぱちゅりーの抵抗は弱々しくなり、声も途切れた。 それでもれいむはやめなかった。 どれくらいの時間が経っただろう。 れいむが辺りを見回すと、誰もいない森だった。 洞窟の入り口はすぐそこで、中では赤ゆたちが安らかに眠っている。 頭が冷えると、とたんに後悔が襲ってきた。 「ゆゆゆ、どうしよう、ぱちゅりーころしちゃったぁ」 ゆっくり殺しは大罪だった。 発覚すれば長の座を追われてもおかしくない。 前長の死体は足下に転がっている。 れいむはしばらくぼんやりしていた。 餡子脳の許容量を越えた事態に戸惑っている。 頭の中に、長、ぱちゅりー、英ゆん、ゆっくりごろし、といった単語がぐるぐると浮かんでは消え去り、駆け巡った。 その中にはみょんの顔もあった。 その表情が失望に歪むのがれいむは恐ろしかった。 ふと、口元に浮かんだクリームを舐めた。 その味に、れいむは夢中になった。 死ぬ前に苦しんだぱちゅりーのクリームはとても甘かった。 舌を伸ばして、反対側の頬についたクリームも舐め取る。 気付くとれいむはぱちゅりーの潰れた死体を貪っていた。 それほど嫌悪感はなかった。 おかざりがなければ、ゆっくりの体はあまあまのひとつにすぎない。 おかざりは体当たりした時に草むらの陰に転がっていた。 ゆっくりと、確実に、れいむはぱちゅりーの体を腹の中に収めていった。 柔らかいものは舐め取り、固いものは噛み砕いた。 死体は跡形も残らなかった。 飛び散ったクリームが草に付着している。 れいむはそこまで気にしなかった。 巣穴に帰ろうとしたとき、先ほどのぱちゅりーの言葉が耳の奥に蘇った。 その途端、先ほどの感情の奔流が再び襲ってくる。 れいむは髪を振り乱して暴れた。 (おさしっかくだわ) 「ちがう! ちがうよ!」 「どうかしたみょん?」 いきなり声を掛けられてれいむは10cmほど飛び上がった。 「みっ、みみみみょん、おかえり!」 「ゆん……なにかしてたみょん?」 「なんでもないよ!」 みょんもれいむに続いて巣の中に入る。 訪問は空振りだった。 ぱちゅりーの巣まで行っても誰もいなかったため、 みょんは道々ぱちゅりーを探しながら帰ってきていた。 それでもぱちゅりーは見つからなかった。 みょんはそちらに気を取られて、れいむの様子がおかしいのに気がつかなかった。 すぐそこに、今しがたぱちゅりーが吐き出したばかりのクリームがあった。 それには気付かずに、みょんが言う。 「おかしいみょん、おうちまでいってもおさがいなかったんだみょん」 れいむは餡子が口から飛び出しそうになった。 「……」 「あした、もういちどいってみるみょん」 「そ、そうだね!」 れいむは精一杯平静を装った。 応える声が震える。 「どうかしたかみょん?」 「なんでもないよ! おちびちゃんたちが起きちゃうから、もう ねようね!」 「それもそうだみょん」 疲れていたのか、みょんはすぐ眠りについた。 れいむは眠る態勢になっても、ぱちゅりーの言葉が耳について離れなかった。 うずくまったれいむの周りを、ぱちゅりーがぐるぐる回って繰り返す。 (おさしっかくだわ――しっかくだわ――しっかくだわ) れいむは眠れずに苦しんだ。 顔をしかめて、唸り声を上げる。 だがぱちゅりーの幻影も、やがて頭の中から消える。 しばらくしてれいむは眠りに落ちた。 5 翌朝はうって変わっていい天気だった。 ぱちゅりーがいなくなったことは、まだみょんしか知らなかった。 洞窟では、赤ゆたちがもう起き出してじゃれまわっていた。 「ゆっゆっゆっ、ごはんしゃんはゆっくちちてるにぇ!」 「きゃわいいれいみゅがごはんしゃんたべるよ!」 赤れいむたちは食欲旺盛だった。 ご飯の山にすがりつき、全身で喰らいつくように木の実を口に運んでいく。 「ちーんぴょ! やめてみょん!」 赤みょんはご飯にありつけないでいた。 一匹だけ遅く生まれて体が小さいみょんを、姉れいむたちが邪魔するのだった。 れいむ種同士の連帯感で、赤みょんは仲間外れになっていた。 「ちびのいもうちょはたべにゃいでにぇ!」 「こっちくるにゃ!」 「このごはんしゃんはれーみゅたちのもにょだよ!」 赤れいむたちが小さな体で赤みょんを左右から挟むと、 押し出すようにしてご飯の前から弾き出してしまった。 「おちびちゃん、やめるみょん! ちゃんとなかよくわけるみょん」 赤みょんに寄り添ったみょんが叱責を飛ばす。 「まあまあ、みょん、おちびちゃんたちもわるぎはなかったんだよ! あんまりおこらないであげてね!」 「み、みょん」 れいむがそう言うので、みょんは引き下がった。 赤れいむたちは、れいむの側に固まってプルプル震えている。 「わかったみょん。こんどはなかよくたべられるみょん?」 「ゆっくちわかっちゃよ!」 「おちびみょんのぶんは、みょんがとってくるみょん。けんかしちゃだめだみょん」 みょんは、巣を出て行った。 途端に姉れいむの一匹の表情が変わる。 「ゆぅぅ~おきゃーしゃんにおこられちゃよ!」 「おまえのしぇーだ!」 「ちーんぴょ!」 姉れいむたちが赤みょんへ苛立ちをぶつけた。 取り囲んで小突き回したり、おかざりを噛んだりする。 そんな光景をれいむは見て見ぬふりをしていた。 ときおり「あんまりけんかしちゃだめだよ!」と当り障りのないことを言うだけだった。 みょんが帰ってきたとき、赤みょんがすっかり怯えて洞窟の隅で震えていた。 「どうかしたみょん?」 「おきゃーしゃん、おきゃえり!」 「そのごはんしゃん、たべちぇもいい?」 「これは、ちびみょんのぶんだみょん。ちびれいむちゃんたちはさっきたべたみょん?」 赤みょんにご飯を与えながら、みょんがどこか違和感を感じていたが、その正体はついにわからなかった。 日が高くなるにつれ、群れのゆっくりたちは様子がおかしいことに気がついた。 前長のぱちゅりーの姿が見えないのである。 日中、あまり外に出ない前長ぱちゅりーは巣の中でじっとしていることが多かった。 傷まりさはいち早く、前長がいなくなったのを見つけた。 新しい巣に移り住んでからも、傷まりさだけは前長ぱちゅりーにご飯を届けていた。 傷まりさは長選出の時にれいむに票を入れなかった数少ないゆっくりだった。 案の定、前長ぱちゅりーのことを蔑ろにした上に、慣習を利用してご飯を集めさせたれいむが気にいらなかった。 今でも傷まりさは、長はぱちゅりーひとりだけだと思っている。 それで、狩りが十分に出来なくなった前長ぱちゅりーの代わりに、できるだけ多く狩りをするようにしているのだった。 前長ぱちゅりーの巣はがけの斜面にある大きな窪みだった。 斜面に埋まっていた岩が何かの拍子に崩れ落ちて土がえぐれている。 今にも崩れてきそうな危なっかしい巣だった。 傷まりさがご飯を届けに行った時、巣の中に長の姿はなかった。 辺りを探しても見つからず、焦った傷まりさは自らのつがいのありすに告げ、 そこから群れ全体に前長ぱちゅりーが失踪したと広まった。 傷まりさはれいむの洞窟にも赴いた。 洞窟の前に生えた草は着々と背を伸ばしている。 一本だけ延びた、周りより背の高い草を押しのけて、傷まりさは洞窟の前に立った。 みょんが入口にいた。 れいむは狩りに行っている。 「ゆっくりしていってね!」 傷まりさは前長がいなくなったことを告げた。 「ぱちゅりーが?」 みょんは腑に落ちたという顔をした。 やはりいなくなっていたのか。 みょんは傷まりさに、昨日の夜から前長ぱちゅりーの姿が見えないということを伝えた。 「ゆゆ、それはへんだぜ」 「いったい、どこへいったんだみょん?」 二匹は体を左右に傾けている。 「みんなにきいてみるのぜ!」 まりさは森へ戻ろうとする。 そこへぷんと甘い匂いが漂ってきた。 「こんなところにあまあまさんなのぜ?」 傷まりさは匂いの元を探し始めた。 下草をおさげでざん、ざんと払っていく。 みょんもその匂いに気づいた。 風の具合で、不自然に甘い匂いが漂ってくるのを感じる。 「ほんとだみょん」 洞窟の入口から少し離れたところの岩陰で、傷まりさは打ち捨てられて汚れた前長ぱちゅりーの帽子を見つけた。 「ぱちゅりーのぼうしだぜ……」 その周りにはクリームが飛び散っていた。 虫が黒くたかっている。 後からついてきたみょんはその光景を見て少し怯んだ。 「おさ……のおぼうし……」 ぱちゅりーを探しに行った時、ぱちゅりーは巣穴に居なかった。 そのとき、ぱちゅりーはもうここまで来ていたのだろうか。 なんのために? 今、ぱちゅりーはどこにいるのだろうか? みょんが考えていると、傷まりさは前長ぱちゅりーの帽子を拾い上げた。 「むれのみんなにしらせてくるんだぜ」 傷まりさは消沈した様子で跳ねていく。 周りに飛び散ったクリームの量から考えて、前長ぱちゅりーが無事だと信じるのは難しかった。 一縷の望みをかけて、群れのみんなに知らせることしかできなかった。 みょんはそれを見送った。 みょんは、前長ぱちゅりーが消えたことにれいむが関わっている気がした。 何の根拠もない思い付きだったが、なぜかみょんには奇妙な実感を伴って感じられた。 その直感が当たっていなければいいとみょんは思った。 まりさが帰ってきたのはその翌日のことだった。 群れの外れにある今はもう誰も住んでいない巣穴を、一匹のありすが通りかかったのは本当に偶然だった。 狩場から帰る途中、木の実をかちゅーしゃに乗せて巣に戻るありすは、 かつてれいむとまりさのつがいが住んでいた薄暗い巣穴の中に、ぼうっと佇む影を見かけたのだった。 後ろ姿に、ぼんやりとした面影がある。 「まりさ……まりさなの……?」 ありすが声をかけると、まりさは振り向いた。 きゃっと声をあげる。 満身創痍の格好だった。 まりさの顔は、溶けかけのマシュマロのように溶け崩れ、 片方の目は、垂れ下がってきた皮にふさがれて完全に閉じている。 よく見ると全身がぼろぼろで、おさげも長さが半分になっていた。 「どうしたの、まりさ……! いきてたのね……ああ、でも、なんてひどい」 まりさは無言だった。 「にんげんにやられたのね? どうしよう……ぺーろぺーろしましょうか」 まりさは体を横に振ると、ほとんど聞き取れないようなかすかな声で呟いた。 「……れいむは?」 その目は呆然と誰もいない巣穴の中を見ている。 「ああ、そうね。あのね。れいむはここにはすんでないのよ。おさのいえにうつって……」 「おさ!?」 その声だけが異様に大きかったので、ありすはびっくりした。 「そうよ。れいむはあたらしいおさになって……みょんといっしょになったわ」 しばらく誰も喋らなかった。 やがて、まりさの片方の目からぼろぼろと涙が溢れて、体を伝って地面に落ちた。 「まりさ」 ありすは声をかけることも出来ず、しばらく二匹で立ち尽くしていた。 まりさが帰ってきたという報せは、すぐに知れ渡った。 人間に連れ去られ、死んだと思われていたまりさが ひょっこりとありすに連れられて現れたという報せは、群れを喜びに溢れさせた。 あわて者のちぇんが群れ中を駆け回り、まりさが帰ってきたことを話して回った。 ちぇんはれいむの洞窟に駆け込むと、まくしたてた。 「たたたいっへんだよー! まりさがかえってきたんだよー!」 昼にもかかわらず眠っていたれいむが洞窟の奥からのっそりと起き上がってきて、その言葉を聞いて理解するのにたっぷり十数秒かかった。 「まりさが?」 「そうだよー! なにねぼけてるの! れいむのつがいのまりさだよ!」 ちぇんはじっとしているのがもどかしくてたまらないというようにその場で何度も飛び跳ねている。 れいむの返事も聞かずに再び跳ねだした。 「ほかのみんなにもしらせなきゃなんだよー! わかってねー!」 れいむは頭を巡らせていた。 ちぇんの後ろ姿をぼんやり眺めながら、餡子脳に様々な感情が荒れ狂う。 本当にまりさなのか。 なぜ今頃帰ってきたのか。 人間に殺されたのではなかったか。 何より、れいむはみょんとすでに幸せな暮らしを始めてしまったのである。 まりさのことを、辛い思い出と共にようやく忘れかけていた頃にまりさは帰ってきた。 今れいむはみょんと幸せに暮らしている。少なくともれいむはそう思っている。 れいむはまりさが以前ほど大事に思えなくなっていた。 現れて欲しい時に現れず、みょんとの暮らしを壊そうとするまりさは、 すでにれいむの中で邪魔者に成り下がっていた。 ちぇんが見えなくなると、洞窟からみょんが出てきた。 みょんは複雑な気分だった。 れいむのつがいで、人間に連れ去られて死んだと思われていたまりさが、生きていた。 みょんはまりさと話したことはなかったが、小さい群れだから、見かけたことは何度かある。 今思えばれいむと仲良さそうにしていた。 れいむとつがいになったとき、まりさはもういないのだから、という気持ちがあったことは事実だ。 まりさを失って悲しんでいるれいむの姿はとても寂しそうに見えた。 最初は同情だったかもしれない。 だが何度も逢ってれいむと一緒に過ごすうちに、れいむ自身に惹かれていった。 だが今のれいむはあの頃とは違いすぎた。 みょんは揺れていた。 れいむの優しさは、誰に向けられたものなのだろう? 全てまやかしだったのだろうか。 自己中心的で自らを省みないれいむが、本当の姿なのだろうか。 確かめたいと思った。まりさに会えば、なにかわかるのではないか。 そんな思いでれいむに呼びかけた。 「れいむ、いってみるみょん。おちびちゃんは、しばらくおいていくみょん。 おかーさんたちが いないあいだ、なかよくおるすばんできるみょん?」 みょんはそう言って、洞窟の中へ振り返った。 赤ゆたちは巣の中を転げまわって遊んでいる。 「ゆっ、へーきだよ!」 「いっちぇきてにぇ!」 れいむも、すぐに済むだろうと思って出かけることにした。 「いこたちだね! いってくるよ!」 れいむとみょんは連れ立って、まりさがいる丘の上に向かった。 丘の上には群れのゆっくりたちが集まっていた。 長の選出のときほどではないが、大勢のゆっくりがいる。 前長ぱちゅりーの姿は見えない。 ゆっくりの輪に囲まれた中心にまりさはいた。 れいむが来ると、その輪が割れてまりさの姿が見えた。 ぼろぼろの姿だった。 れいむは、一目見るなりこう言った。 「どうして帰ってきたの!?」 まりさは面食らった。 かつてのつがいへかける言葉とは思えなかった。 信じられないという表情で固まっている。 周りのゆっくりたちも同じ気持ちだった。 「れいむはもうみょんとくらしてるんだよ! まりさはおよびじゃないよ! ふたりのしあわせーなせいかつをじゃましないでね!」 みょんは驚きながらもそれをじっと見ていた。 「れいむ……どうして」 まりさが呆然とつぶやく。 「そうよ!」 周りのゆっくりたちからも声が上がる。 叫んだのはリボンぱちゅりーだった。 「まりさは、にんげんにひどいことをされて、それでもれいむにあいたくて、いっしょうけんめいここまでかえってきたのよ! なのにどうしてそんなこというの!」 「う、うるさいよ!」 「あなたはまりさの かっこうが見えないの? ありすがまりさをみつけたとき、あなたはなにをしていたのよ! おさだというのに、いちばんあとにきて、まりさはずっと あなたにあいたがってたのに!」 「ゆうう! やめてね! ゆっくりできないことをれいむにいわないでね!」 れいむの餡子脳は激しい糾弾に耐えられなかった。 激しくれいむを責め立てるリボンぱちゅりーの姿が、長だったぱちゅりーの姿と重なる。 れいむは思っている。 ぱちゅりーたちは、自分たちの頭のいいのを鼻にかけている。 れいむにはわからないことを延々と喋り続けるいやなやつだ! 実際にはそんなことはないが、れいむの意識はそういう風に凝り固まってしまっていた。 どんな忠告も、れいむには届かなかった。 ゆっくりできない言葉として聞く耳を持たなかった。 強いストレスに晒されたれいむの餡子脳に、昨夜の光景がフラッシュバックした。 ゆっくりできないことをたくさん言う前長ぱちゅりー。 反論できないれいむ。 爆発したれいむはぱちゅりーに襲いかかる。 目の前が真っ白になり、何も考えられない。 気がつくと、ぱちゅりーは自分の下にいた。 体はペチャンコになっている。 もう助からない――。 れいむは前長ぱちゅりーを殺したことを認めたくなかった。 葛藤とプライドの間で、れいむの餡子脳は苦しんだ。 れいむはわずかな間、意識を手放した。 意識の手綱から逃れたれいむの体が、勝手に昨夜の出来事を再現する。 前長ぱちゅりーを潰した時と同じように、大きな体で飛び上がった。 時間が非常にゆっくりと流れていくようだった。 みょんたちの見ている前で、れいむはリボンぱちゅりーの方へ飛びかかった。 リボンぱちゅりーは恐怖に顔を歪めるが、とっさに動けない。 見上げる顔にれいむの影が差した。 誰よりも早く動いたのはまりさだった。 横から飛び出してきたまりさが、リボンぱちゅりーを咄嗟に突き飛ばした。 リボンぱちゅりーは吹っ飛ばされて、地面に転がった。 まりさはリボンぱちゅりーと入れ替わる。 さっきまでリボンぱちゅりーのいた位置に、まりさがいた。 バランスを崩したまりさは、へたりこんだ。 すぐには動けそうにない。 そこへれいむの体が空から降ってくる。 まりさが最後に見たのは、襲いかかるれいむのあんよだった。 時間が動き出した。 「じねぇぇぇ! わからずやのぱちゅりーはゆっくりしんでねぇぇ!」 リボンぱちゅりーはゆっくりと目を開けた。 れいむがまりさの上に乗って飛び跳ねている。 誰かの悲鳴が上がった。 れいむはただ夢中で飛び跳ねている。 もはや目の前のゆっくりが誰だかも、自分が何をしているのかも、 興奮と目の前の幻覚のせいでわからなくなっていた。 血相を変えたありすや傷まりさが、れいむを引き剥がした。 もみあげを後ろから一本ずつ捕まえて引っ張る。 れいむが動こうとすると、もみあげの付け根に激痛が走った。 れいむのあんよの下から出てきたまりさは、すでに息絶えていた。 「れいむ、なんてことを……」 「ゆわああああ!」 錯乱して暴れるれいむの姿を、群れのゆっくりたちは見ていた。 小さなざわめきが広がる。 本当にこれが、人間に立ち向かったあの英ゆんれいむだろうか。 ゆっくりたちが、薄々感じながらも、押し込めていた不安が、段々大きくなり始めていた。 あまつさえ、目の前でまりさを殺したのだ。 れいむが長であることに疑問を抱く者もいた。 れいむは暴れながら叫ぶ。 拘束から逃れようとするが、もみあげを動かせば動かすほど、根元がちぎれそうなくらいに痛んだ。 「ぱちゅりーはれいむをばかにしたよ!」 「なにいってるんだぜ!」 「れいむのことをおさしっかくっていったんだよ! れいむはおさなのに! おさなのに!」 「おちつきなさい!」 れいむはやっと我を取り戻した。 荒い息をついて辺りを見回す。 体中が風邪をひいて高熱を出したときのようにぶるぶる震えていた。 「れいむ!」 みょんが急いで跳ねてくる。 「みょん、みょん! どうしたの! なんでれいむはうごけないのぉぉ!」 「おちついて、れいむ、おちついて……」 みょんが寄り添うと、れいむの震えは止まった。 目が泳ぎ、忙しなく周りを見回す。 自分が何故拘束されているのか分かっていないようだった。 「れいむ、どうして、こんなことを」 「ゆ?」 れいむは改めて、今自分がしたことを見た。 潰れているまりさの死体と、周りのゆっくりたちの表情を見る。 「まりさがつぶれてるよぉぉ!」 「れいむがやったんだみょん」 みょんは静かに言った。 「れ、れいむはわるくないよ! ま、まりさがきゅうにとびだしてきたから!」 「ゆっくりごろし!」 ありすが叫んだ。 「れいむじゃないよ! れいむはわるくないよ! まりさが、れいむとみょんのじゃまをするからだよ! あんなたやつは、しんでとうぜんなんだよ! まえのおさみたいに……」 「れいむ、今なんていったんだぜ!」 すぐに口をつぐんだが、傷まりさがそれを聞いていた。 れいむは、自分が何を口走ったかに気がついて、慄然とした。 「こたえるんだぜ! れいむ!」 傷まりさは噛みつきそうな表情でれいむを真正面から睨みつけた。 れいむは目をそらしたが、目は左右に泳ぎ、体中に甘い汗をかいている。 傷まりさの刺すような視線から逃れられなかった。 そのやり取りを聞いていた群れのゆっくりたちも、れいむの言ったことの意味がわかりかけてきた。 前長ぱちゅりーは、行方不明になっていたはずだった。 なぜれいむは前長ぱちゅりーが死んでいると知っているのだろう? みょんの悪い予感は当たってしまった。 前長ぱちゅりーが死んでいるのを知っているのは、れいむが殺したからに他ならなかった。 れいむはすっかりおとなしくなって、傷まりさたちに囲まれている。 みょんはそこへ近づいた。 震える声で、訊ねる。 「れいむ……ほんとうのことをこたえてほしいみょん」 れいむを強い視線で見つめた。 真剣な視線で訊ねる。 「まえのおさのぱちゅりーを、ころしたみょん?」 「れいむは、わ、わるくないよ! ぱちゅりーが、ゆっくりできないことをたくさんいってきたから……」 それが答えだった。 みょんはかつてない絶望感に襲われた。 頭の奥がすっと冷えて、今まで立っていた足元が急に崩れていくような感覚だった。 吐き気までした。 誰よりも前長ぱちゅりーを慕っていた傷まりさは、激昂した。 感情のままにれいむに飛びかかった。 体当たりがれいむにぶつかる。 「なんで、ころしたんだぜ!」 「なにするの!?」 れいむはややよろめいて、二、三歩飛びすさった。 さきほどまでの勢いはなかった。 完全に気圧されていた。 もはや、誰の目にも明らかだった。 れいむは前長ぱちゅりーを殺し、今も、つがいだったまりさを殺した。 身の毛もよだつ所業だった。 しかもれいむには自覚がなかった。 もはや全て自分以外の責任にすることで、自己を保っている状態だった。 小石が飛んできて、れいむのそばに落ちた。 「ゆっくりごろし!」 誰かが叫ぶと、その声はあっという間に大量の怒号となってれいむを襲った。 「ゆっくりごろし!」 「おまえなんか、おさじゃない!」 「れいむはおさだよ! なにいってるのぉぉぉ!」 れいむは反駁した。 だが、ゆっくりたちの叫びの前に、簡単にかき消されてしまった。 周囲を囲むゆっくりたちは、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。 れいむはすぐさま逃げ出すことを決心した。 今まで、長として言うことを聞かせてきたゆっくりたちが、自分の前に大勢立ちふさがっている。 圧倒的な数の差に、すぐに心細くなった。 「みょん、にげようね!」 れいむは体を翻して、みょんと跳んだ。 みょんを押すようにして、自らも丘の上から斜面にダイブする。 みょんは咄嗟に反応できなかった。 柔らかい草の地面に転がって、二匹は斜面を転がり落ちていった。 「おうんだぜ!」 「ゆおおー!」 傷まりさが号令をかけた。 ゆっくりたちは、熱気のこもった返事を返す。 れいむを憎むことで生まれた強固な団結だった。 傷まりさを先頭に、ゆっくりたちは丘を降りていった。 二匹は無事に下まで辿り着いた。 丘の上から転がってきた二匹は、地面が水平になるところで止まる。 草にまみれながら、何度かバウンドして勢いを失った。 「ゆぺ!」 れいむが起き上がって、辺りを見回した。 群れのゆっくりたちは、丘の上にいる。 しばらく時間を稼いだようだ。 みょんは魂が抜けたようにぼーっとしていた。 じっとうつむいて何も喋らない。 れいむの呼びかけにも反応しなかった。 「みょん、だいじょうぶ? ここまできたらもうあんしんだよ!」 追っ手の声が聞こえた。 れいむは逃げおおせたと思っていたが、群れのゆっくりたちも当然すぐに後を追ってくる。 傷まりさを先頭に、隊列が丘を降りてくるのが見えた。 「ゆぎゃぁぁ! もうきたよ! いそごうね!」 みょんは様子がおかしかった。 うつむいて、何も言わない。 返事がないので、れいむは肯定と受け取った。 れいむはみょんを引っ張るようにして跳ね出した。 茂みの中へ逃げ込んで姿を隠す。 追手は別の道を跳ねて行った。 6 時間は少し戻って、洞窟の中では赤ゆたちが餌を奪い合っていた。 赤れいむたちが、みょんの残していったご飯をお互いに独り占めしようと、 柔らかい体で体当たりをしたり、小さな歯で引っ張り合いをしている。 「こにょ!」 「れーみゅのだよ!」 「れーみゅにちょうだいにぇ!」 赤みょんは隅のほうで泣いていた。 取り合いとなると、みょんはいつも弾き出されてご飯にありつけないのだった。 興奮した一匹の姉れいむが、もう一匹を強く突き飛ばした。 玉突きのように押された姉れいむが、さらに赤みょんにぶつかって押し飛ばした。 赤みょんは洞窟の隅へ追いやられた。 その拍子に、木の実の山にぶつかる。 積まれた木の実の一つが、衝撃で揺れてみょんの目の前に落ちてきた。 それは、みょんが赤ゆたちに何があっても食べてはいけないと念を押していたものだった。 今では蓄えを継ぎ足す者もなく、ひっそりと乾いていくのを待つだけだった。 赤みょんは喉を鳴らした。 今なら姉れいむたちはこちらを見ていない。 この木の実を自分が独り占めできる。 姉れいむたちに教えたら、自分だけ押しのけられて、食べられなくなってしまう。 それは嫌だった。 今すぐ食べてしまいたかった。 舌を伸ばしかけたその時、赤みょんの餡子脳に母親の顔が浮かんだ。 優しくて、この世の誰よりも自分を守ってくれる母親。 もしこれを食べれば、みょんは悲しむだろう。 正直に話せば、お腹がすいて仕方がなかったと慰めてくれるかもしれない。 だが、心の奥では、約束を破った子供に深く失望するだろう。 実際にはみょんは、むしろ充分に言い聞かせなかった自分を責めるはずだった。 しかし幼い赤みょんにとっては、母親が世界の全てであり、 その言いつけに背くことは考えられなかった。 赤みょんは、舌を引っ込めた。 「ゆっ、ちびみょんがごはんをひとりじめしてるよ!」 姉れいむの一匹が、赤みょんに気づいて大きな声をあげた。 「よこしちぇにぇ!」 姉れいむたちは、みょんの言いつけなど覚えていなかった。 赤みょんを無視して木の実の山に殺到する。 群れのゆっくりたちが長い間かけて集め、前長ぱちゅりーが守ってきた貯蔵庫は 赤れいむたちの限度を知らない食欲の前にあっけなく崩れ去った。 赤れいむたちは一心不乱に食べ散らかしている。 三方から木の実の山に取り付いてトンネルができそうな勢いで食べ続けた。 赤みょんは洞窟の隅でそれをじっと見ていた。 やがて赤れいむたちは満腹になった。 これ以上ないというくらい膨らんだ腹が顔の下にぶらさがっている。 ひょうたん形になった赤れいむたちは、自分の力では動けないくらい太っていた。 「おにゃかいっぱいになったら、うんうんしたくなっちぇきちゃよ!」 「れーみゅたちの、すーぱーうんうんたいみゅはじまるよ!」 三匹は揃ってうんうんをした。 ぷんと甘い匂いが洞窟に充満した。 匂いは洞窟の隅にも漂ってきて、赤みょんは吐きそうになった。 ゆっくりのうんうんは、ただの古い餡子だった。 うんうんを臭く感じるのはゆっくりだけで、それ以外の動物にとってはゆっくり自身と何ら変わりがない。 一匹の蟻が洞窟に入ってくる。 甘い匂いにつられて、迷い込んできたようだった。 赤れいむたちは、動けない間の暇つぶしに揉み上げや下で蟻を追い回して遊んだ。 「ゆっ! にげないでにぇ!」 「ゆっくちれいみゅに ちゅぶされちぇにぇ!」 蟻はあちこち逃げ回りながら、うろうろと歩く。 赤れいむたちのうんうんを見つけると、その周りを何度か回って、洞窟から出た。 「にげちゃったよ! やっぱり ありさんはよわいね!」 「れーみゅたちは かんっだいっだから、かえしてあげりゅよ! かんちゃちてにぇ!」 数分後、獲物のありかを報告した斥候蟻が、巣の中の働きアリたちを引き連れて戻ってきた。 一列に並んだ蟻たちは、甘いにおいを発するれいむのうんうんに目をつける。 赤れいむたちは、食べ過ぎた木の実のせいで身動きが取れなかった。 「ゆ、ゆわぁぁぁ! いっぱいきちゃよぉ!?」 「ありしゃんこないでにぇ!」 蟻たちは、地面に転がっている大きな獲物を嗅ぎつけた。 甘いうんうんと同じ匂いが、その薄い皮の奥にたっぷり詰まっている。 「やめちぇにぇ! れーみゅにのぼってこにゃいでにぇ!」 「ゆわぁぁ! いちゃいよ! おきゃーしゃん!」 赤れいむたちはゆっくりと解体されていった。 巣の外にはすでに長い行列ができている。 Vの字の行列が折り返す場所に、赤れいむたちはいた。 行きには何も持っていなかった蟻たちは、帰りにはあんこのかけらを手に入れていた。 蟻たちは大きなあごで獲物をちぎり取る。 「やめぢぇにぇ! ぢぎらないぢぇにぇ!」 体中を這い上り、口から侵入し、内部を食い破る。 「いぢゃいい! おとーしゃん! おきゃーしゃん!」 一匹の赤れいむの目玉がぽろりと落ちて、空洞の眼窩の中から蟻が這い出てきた。 「れーみゅのふろーれすなおめめがぁぁぁ!」 赤れいむたちは身動きが取れず、仰向けになったまま、 体を這い回る蟻の感触に脅え、力強いあごで皮と餡子をごっそりもっていかれる痛みに泣き叫んだ。 「ゆぴゃぁぁぁ! ゆぢぃぃぃ!」 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」 「もっと……ゆっくち」 動かなくなった赤れいむたちに群がる蟻の数が、更に増えた。 全身を黒い蟻が覆い、表面を動き回っている。 リボンが取れて、地面に落ちた。 蟻たちはお飾りには興味を示さなかった。 全ての蟻が去った後、洞窟の中には赤みょんと姉れいむたちのリボンだけが残されていた。 赤みょんは危険を感じて、木の実の山の上に避難していた。 蟻たちは、三匹の丸々太った餡子の塊を手に入れて、赤みょんまでは襲おうとしなかった。 赤みょんは、木の実の山の上でただ泣いていた。 「おちびちゃん、どこにいるの? これからでかけるよ! すぐにおかあさんのおくちのなかにはいってね!」 れいむは丘の上から降りた後、すぐに洞窟へ向かった。 おちびちゃんを連れて群れを出るつもりだった。 洞窟の外から、赤ゆたちに呼び掛ける。 洞窟の中は誰もいなかった。 れいむが洞窟の中を覗き込むと小さなリボンが三つ、餡子のかけらの中に落ちていた。 「ゆゆ? おちびちゃん?」 れいむの呼びかけに答えたのは小さな声だった。 「ち……」 「おちびちゃん? どこにいるの? おおきなこえでへんじをしてね!」 れいむは洞窟へ入った。 そこで赤れいむたちのリボンを見つける。 可愛いおちびちゃんたちの姿は見えなかった。 「ゆ、おちびちゃん?」 れいむはまたしても放心していた。 周りには餡子の欠片が散らばっている。 それが、おちびちゃんたちのなれの果てだと気づいて硬直すること約10秒。 その間に、赤みょんは隠れ場所から降りてきた。 「おとーしゃ……」 「おまえかああああ!!」 「ゆぴぇ!?」 固まっていたれいむが赤みょんを見て鬼の形相に変わる。 すさまじい剣幕で赤みょんに詰め寄った。 「れいむのかわいいおちびちゃんたちをどこへやったの!?」 「ち、ちんぴょ」 「だしてね! だしてね! いますぐかえしてね!」 今にも赤みょんを潰しかねない勢いのれいむを、みょんが止めた。 赤みょんに覆い被さるようにれいむの前に立ちはだかる。 それはまりさが人間かられいむを守ろうとした姿勢と似ていた。 「もうやめるみょん、れいむ。 おちびちゃんは きっとどうぶつさんにやられちゃったみょん。 めをはなしたみょんが わるいんだみょん」 「どおじでぇぇぇ! おちびちゃんいるんでしょおぉぉ! でてきてねぇぇぇ!」 答える声はなかった。 赤みょんの泣き声だけが洞窟に響いている。 「ゆっ……ふぅぅ……おちびちゃぁん……」 れいむはうつむいて、ぼとぼとと涙をこぼした。 やっと出来た、念願のおちびちゃんが、少し目を離した隙に、あっさりといなくなってしまった。 まさしく、まりさとのおちびちゃんの時とそっくりだった。 あの時と同じ悲しみを、再びれいむは味わった。 たとえようのない悲しみだった。 あとからあとから涙が出てくる。 そんなれいむを、みょんは冷静に見つめていた。 「ちびみょんがいきていてくれたみょん」 「でもそのおちびちゃんは、れいむに――」 似てないよ、と言おうとしたとき、外からがさっと音がした。 葉の擦れあうかすかな音だった。 見ると、ちぇんが凄い勢いで洞窟の側の茂みから遠ざかっていく。 「れいむたちがいたよー! こっちだよー! わかってねー!」 れいむは慌てた。 悲しいけれど、自分の命より大切なものはない。 「にげようね! もうすぐあいつらがくるよ!」 「……」 みょんは、少し迷う素振りを見せた。 一瞬その顔がよそよそしく凍りついた。 しかし、すぐに平静な顔に戻る。 れいむたちは急いで出発した。 6 夜は森を執拗に押し包んでいる。 れいむたちは広い草むらに出た。 そこは国道沿いの林のほかは何もなかった。 追手の姿は見えない。 日は完全に沈んで、月が出ている。 夜になって、捜索を諦めてくれればいいとれいむは思った。 三匹は背の高い草むらの中を進んでいる。 追手の目から身を隠すことができるが、お互いの姿も見えにくい。 草をかき分ける音と、跳ねる二匹の息遣いだけが聞こえた。 れいむは少し足を止めた。 国道が見えて安心したわけではないが、何度か休憩をはさんで、夕方から歩きづめだったので疲れていた。 苦しそうに体を上下させている。 「もうやだ……どうしてれいむがこんなめに……」 れいむは弱音を漏らした。 歯をむき出して目いっぱい悔しい表情で叫ぶ。 「どいつもこいつも、わからずやばっかりだよ! あんなむれはこっちから出ていってやったんだよ! わかってるよね、みょん?」 みょんは何も答えない。 うつむいて、じっと地面を見ているだけだった。 れいむはさすがに違和感を感じた。 静かすぎるみょんを振り返って、様子を確かめる。 「みょん? だいじょうぶ?」 その時、れいむたちの周囲を強い光が照らした。 二条の光が、林の間を抜けて三匹のいる草むらに届いている。 れいむは一瞬昼間になったかと思った。 光は自動車のヘッドライトだった。 エンジンのかかったまま国道の片側に寄せられたワゴンから発せられている。 闇を貫いて、れいむたちの周囲を白く切り取っていた。 れいむは車のエンジン音に気がつかなかった。 ここまで来るのに夢中だった。 だから、その車から出てきたのが何かも、初めはわからなかった。 れいむはその姿に見覚えがあった。 ぼんやりとした体。その上に乗った、おかざりのない顔。 ゆっくりから見ればアンバランスなその姿は、まぎれもなく「人間」だった。 その顔は、群れを襲ったあの人間に他ならなかった。 れいむの目に焼きついた、襲撃の光景がよみがえる。 あまあまをくれた人間は、れいむからもっと大きなものを奪っていった。 今ではそれはゴミ同然になってしまっていたが、 あの時れいむの運命を変えたのは間違いなくこの人間だった。 「ゆ……」 自分でも知らないうちに、れいむは小さく声をあげていた。 もみあげを震わせ、唇をかむ。 全ては、この人間の一言から始まった。 人間が戯れに突きつけた選択で、れいむたちの運命は狂ったのだった。 気がつくとれいむは人間に向かって突進していた。 「ゆわぁぁぁぁぁぁ!」 人間は何も言わず、足を少しだけ前に上げた。 れいむはその爪先に吸い込まれるようにぶつかり、次の瞬間には地面に転がっていた。 あまりにスムーズだったので、自分から蹴られに行ったようにも見えた。 「ゆぶ!」 顔の中心をへこませながら、起き上がるれいむ。 そのまま人間を見上げた。 その目は自分を理不尽な目に遭わせた人間への憎しみに染まっていた。 人間もれいむを見下ろした。 れいむは人間に対して命をかけて戦う意思などはじめからなかった。 憎しみや怒りはすぐに消えて、はるかに大きな恐怖が襲ってきた。 すぐに視線をそらした。 そしてれいむは我に返った。 複数のゆっくりの声が遠くに聞こえる。 追っ手はまだ諦めていなかった。 捕まれば、終わりだ。 おさげに持った木の枝で殴られ、突き刺され、ぱちゅりーと同じ死体になるまで踏み潰されることは餡子脳にも容易に想像できた。 前を見る。 ヘッドライトの逆光に照らされた人間のシルエットが立ちふさがっている。 人間は、必要ならいつでもその無慈悲な手を伸ばすだろう。 逃げ場はなかった。 どちらへ行っても、待っているのは死のみだった。 逃げ道をふさがれた恐怖に、れいむの心はゼリーのようにぐらぐらと揺れた。 あの時と同じだった。 れいむは人間と相対し、その周りを群れのゆっくりたちが取り囲んでいる。 違うのは夜だということ、そして隣に居るつがいだった。 れいむの脳裏に、人間の言葉が蘇った。 (群れかつがいか、どちらか選ばせてやろう) いちかばちかだった。 人間は今にも手を伸ばして、れいむを掴もうとしている。 れいむは咄嗟に叫んだ。 「もういちど! にんげんさん!」 人間の手がぴたりと止まった。 れいむの顔を見下ろす。 れいむは、媚びるような態度で必死に喋り始める。 「もういちどだけえらばせてね! むれか、つがいか、赤と青のあめさんをちょうだいね!」 人間はじっとれいむを見ている。 それで、どうすると言いたげだった。 「そしたら、れいむはこんどこそみょんをえらぶよ! あんなむれの やつらは、にんげんさんにつぶされちゃえばいいんだよ!」 周りで聞いていたゆっくりたちはどよめいた。 人間がれいむに味方すれば、ゆっくりたちは到底敵わない。 あの日の再来だった。 「ばーか! いまごろ こうっかいしても おそいんだよ! にんげんさんはつよいんだよ! にげても むだだよ! れいむを おいだしたり するから こうなるんだよ!」 取りつかれたようにれいむは喋り続けた。 目は血走り、口角泡が飛んでいる。 なりふり構っていられない状況だった。 「……」 それをじっと見ていた人間は、少し考えて、ポケットからあるものを取り出した。 赤色と青色の二つの飴玉だった。 こうなることがわかっていたかのように、二つを地面に置いた。 れいむは狂喜した。 人間が、自らの主張を受け入れた。 れいむの言うことを聞いて、再び選択のチャンスをくれた! 「やったぁぁ! みろぉぉ! れいむはただしかったんだよぉぉ! むれのやつらをぶっころしたら、みょんとふたりでくらそうね! ずっといっしょにゆっくりしようねぇぇ!」 人間はやっと口を開く。 「ああ、そうだな。でも、お前にばっかり選ばせるのも不公平だな。お前のつがいにも聞いてみようか」 「ゆっ?」 その場にいる全員の視線がみょんに集中した。 うつむいていたみょんが、ふうっと幽霊のように顔を上げた。 その顔に表情は浮かんでいない。 小さく「みょんが……?」とつぶやく。 れいむはぽかんとした。 「どぼじでぇぇぇ!?」 「みょんが選ぶか、全員潰れるかだ。黙ってろ」 みょんは黙ったまま人間の方を見る。 赤と青。 その足元には、依然として二つの飴玉がある。 みょんの目に、妙に鮮やかな色彩を伴って迫ってきた。 「みょん! ゆっくりしないでえらんでね! まようひつようなんてないよ! あかをえらんでね!」 れいむは絶対の自信を持っていた。 みょんとれいむはべすとかっぷるなんだよ! あんな群れなんか捨てて、れいむと一緒に暮らしてくれるよね! みょんはれいむから目を逸らしていた。 手近の枝を口にくわえる。 ゆっくりと枝が持ち上がっていき、飴玉のほうを向く。 枝は青い飴のほうを向いている。 みょんが選んだのは、群れだった。 「やっ……やべろぉぉぉ!」 れいむは顔を真っ青にして、虚ろな目をしたみょんに飛びかかった。 みょんにぶつかる寸前、その体ががくんと空中で停まった。 人間の大きな手がれいむのリボンをつかんでいた。 「ゆぎぃぃぃ!」 手の中で体をめちゃくちゃに動かして、何とか逃げ出そうと暴れる。 リボンが外れて、れいむの体は地面に落ちた。 「ゆぺ!」 顔面から叩きつけられる。 すぐに起き上がって、みょんに訴えかける。 「どぼじでぇぇぇ! あかをえらんでねっていったでしょぉぉぉ!」 「……」 みょんは黙っている。 人間は揶揄するような口調で言う。 「せっかく、みょんとつがいになって、おさにまでなったのに残念だったな」 「どぼじでしってるのぉぉ!」 人間が現れたのはこれで二度目のはずだった。 群れの事を知っているはずがなかった。 人間は答えない。 代わりに、うーぱっくが男の顔のそばに飛んできた。 「よくやったな」 「うー☆」 男があまあまを投げると、嬉しそうに口でキャッチした。 そのまま森の中へ飛び去っていく。 「こいつに見張らせていたから、何があったかは知ってる。いろいろ好き勝手やってたんだな」 「ゆ……そんな……」 「余計なおせっかいだとは思うが、群れの奴らの代わりに、俺がお前を潰していいか?」 「やめでぇぇ! だれかたすげろぉぉ!」 れいむは人間の手の中で暴れた。 それを、群れのゆっくりたちは冷ややかに見ていた。 「よく見ろ」 人間は無理矢理れいむに前を向かせる。 そこに並んだゆっくりたちの顔、顔、顔。 どれ一つとしてれいむに同情したり、悲しんだりしているものはなかった。 あるのは憎しみだけだった。 「どぼじでそんなかおするのぉぉぉ! れいむはおさだよぉぉ! ちゃんとうやまってねぇぇ!」 「お前、まだ良く分かってないのか」 人間は鉛筆をれいむのあんよに押し当てた。 薄い皮を突き破って、ゆっくりと先端が穴に潜っていく。 「……れいむはわるくないよ!」 人間がぐいっと鉛筆を押し込むと、三分の一以上が中に潜った。 餡を抉られる痛みに、れいむが体をよじる。 「わからないなら、教えてやろうか。まずみょんと無理矢理すっきりしたらしいな」 「ゆがぁぁぁ!」 人間は少し離れたところに次の鉛筆を刺した。 「無能のくせに長に立候補したんだっけな」 「ゆぎょぉぉぉぉ!」 二本の鉛筆からさらに離れた場所にもう一本が刺さった。 「自分で狩りに行かず、群れの奴らに餌を集めさせた」 「ゆぎゃぁぁぁぁ! やめでぇぇぇ!」 鉛筆が、今度はまむまむに突き入れられた。 れいむは全身を痙攣させて、敏感な粘膜餡が傷つく痛みに耐える。 「他のやつの餌を横取りした」 「ゆぎゃあ! いだいいい!」 すでにれいむの体からは、ハリネズミのように何本も鉛筆が突き出ている。 底面に正方形を書いて、その四隅に一本ずつ斜めに鉛筆が刺さっていた。 正面から見ると鉛筆がハの字形に突き出ているように見える。 れいむは半分白目を向き、浅い呼吸をしている。 「……ゆひぃ……ひ……ゆぐぅ」 「挙句の果てに、長のゆっくりを殺した」 人間は最後の一本を頭に刺した。 「ゆっぎゃあああああ! もぉやべでぇぇぇ! れいむがわるがっだでずぅぅぅ!」 「本気で言ってないだろ? 次、せっかく帰してやったまりさを殺した」 目を背けていたみょんがぴくりと眉を動かした。 人間はさらに適当なところに鉛筆を刺していった。 れいむは痛みをこらえながら反論する。 「れいむはっ! れいむはわるくないよっ! まりざなんでっ! まりさなんてじらないっ!」 「つがいだったのにか?」 「あんなやつ、つがいでもなんでもないよっ! かってにどっかいっでっ! れいむのじゃまをしてっ! ころしたほうがよがったんだよ!」 「お前のつがいのみょんも、きっとそう思ってるよ」 「ゆっ?」 れいむは激痛の中で、みょんの姿を見つけた。 すがるような視線で、目を背けたみょんを見る。 一縷の望みをかけて、叫んだ。 「みょん、れいむのことすきだよね!? だからついてきてくれたんだよね!?」 「ちがうみょん。ひとりではおちびちゃんは そだてられないから……。 でも、ちびみょん いがいは、ずっとゆっくりしちゃったから、もういいんだみょん」 みょんは淡々と答える。 れいむは一瞬痛みを忘れて呆けた。 「ゆ……え? ゆ……」 「はっはっは。もうお前はいらないってさ」 「みょんは れいむのこと すきじゃないのぉぉぉ! れいむは、れいむはこんなにみょんのことをあいじでるのにぃぃぃ!」 みょんは冷ややかに言った。 「れいむがあいしてるのは、じぶんだけだみょん」 後はもう、何も言わなかった。 頭の上の赤みょんと一緒に、じっと動かずにいる。 れいむは、みょんがここまでついてきたのだから、当然みょんも自分と同じ考えだと思っていた。 だからみょんにすんなり選択を促した。 みょんはれいむに嫌気がさしていた。 確かにれいむに半ば無理やりついてこさせられた。 だがそれはあの場に残るよりは一緒に逃げたほうがまだ助かる可能性はあるというだけの判断だった。 れいむがまりさを踏み潰した時に、みょんはふと思った。 れいむはみょんを好きだと言う。 でもれいむは、一度も自分の方を向いていなかった。 都合のいいゆっくりとして、そばに置いていただけだ。 れいむのことを信じたかった。 口先だけじゃなくて、何か行動で示してほしかった。 みょんはれいむを支えてきた。 でも、支えあうはずのれいむは、みょんによりかかっているだけだった。 みょんはもう疲れたのだった。 これ以上、れいむについていく気力はなかった。 心の底にはまだれいむを思う気持ちが残っていた。 だがそれは、風前のろうそくのように弱々しく消えかかっていた。 もはや、再びれいむと気持ちを通じ合うことはないと思えた。 れいむの絶叫が響く。 「どぼじでぇぇぇぇ!」 人間はそのままれいむを地面に置いた。 すると、鉛筆が三脚のようにれいむを空中に支えて安定した。 火星探査船やお盆に飾るナスのように、珍妙なバランスの物体が出来上がった。 「おろしてねぇぇぇ! うごけないとゆっくりできないい!」 れいむはもみあげをぴこぴこさせるが、あんよが地面に接していないのでどうやっても動けない。 次に人間は缶に入ったオイルを取り出して、少しれいむの頭に垂らした。 冷たい感触にれいむは声をあげる。ついでにオイルが口に入った。 「ゆひゃぁ! つめたい! にがいいい!」 ライターを取り出して、火をつけた。 火はれいむの肌の上を舐めて、皮と餡を焦がしていく。 「あづぅぅぅぃぃぃ! ゆがああああぁぁ! けじで! とめでぇぇぇ!」 もみあげで頭を叩いて消そうとするが、逆にもみあげに火が燃え移った。 あっという間にれいむの全身は火に包まれて、燃え盛る。 口の中からも炎が上がる。 声にならない悲鳴が炎の中から途切れ途切れに聞こえてきた。 ぱくぱくと酸欠の金魚のように口を開け閉めする姿だけが見える。 みょんは、赤みょんを口の中に入れる。 自身も目を逸らした。 人間からすれば、ただ饅頭が焼けているだけだったが、ゆっくりには凄惨過ぎる光景だった。 鉛筆の一本が焦げて折れ、地面に落ちてもれいむは燃え続けていた。 皮が焦げてめくれていき、中の餡が剥き出しになる。 それすらも強い熱によって水分が飛び、炭化していく。 れいむがいた場所には、何だか黒い塊が転がっていた。 しゅうしゅうと白い煙があがり、ぷんと焼けた餡の匂いが立ち上る。 表面は固く乾いてひび割れ、中から薄く煙が昇っている。 人間は、その塊を爪先で突き崩した。 表面は焦げているものの、内部の餡はまだ残っていた。 中枢餡も無事だ。 その小さな固く締まった餡の塊を慎重に焼け跡から取り出すと、水筒の中にしまう。 中にはオレンジジュースが入っていた。 「お前にもついてきてもらうぞ」 人間が手を伸ばした。 みょんが人間に捕まる。 掴まれた拍子に、口の中から赤みょんが飛び出た。 地面に落ちてぽとりと柔らかくバウンドする。 「ゆぴゃぁぁ!」 「おちびちゃぁぁん!」 人間は赤ゆには興味を示さなかった。 ザックを再び背負うと、来た時と同じように大股でさっさと歩いていく。 赤みょんは必死でに追いかけた。 小さな体で精一杯跳ねて追いすがるが、とても追いつけない。 どんどん引き離されていった。 「おちびちゃぁん!」 「おかーしゃぁぁ! おきゃーしゃ! まっちぇぇ! ゆぺ!」 地面の窪みにはまって、つんのめる赤みょん。 その間に、人間はどんどん草むらを歩いていってしまう。 人間の後ろ姿が、みょんの声と共に小さくなっていった。 途切れ途切れに聞こえる声が、赤みょんが聞いた最後の母親の声だった。 「……おちび……げんき……」 「まっちぇにぇぇぇぇ! おきゃーしゃぁぁぁん!」 人間は車に乗り込んだ。 まりさを連れ去った時と同じように、家で虐待するためのゆっくりを手に入れて家路につく。 つけっぱなしのエンジンが再び唸りを上げて、車は走り出した。 二度と戻ってこなかった。 「おきゃーしゃん」 ぽかりと口をあけて赤みょんは車が走り去った方向を見ていた。 とてつもなく不安だった。孤独と絶望が一気に赤みょんに襲い掛かった。 意地悪な姉れいむたちはありさんに食べられてしまった。 おとーしゃんは、にんげんさんにいっぱい痛いことをされて、おかーしゃんの口の中にまで悲鳴が聞こえてきた。 おきゃーしゃんはにんげんさんに連れて行かれちゃった。 これからどうやって生きていけばいいのだろう。 まだ狩りの仕方も教わっていないのに、赤みょんはひとりぼっちになってしまった。 知らず涙が溢れてくる。 「ゆぇ……」 声をあげた赤みょんに近づくゆっくりがいた。 傷まりさだった。 「れいむのおちびちゃん」 「みょん?」 赤みょんは振り返った。 視界が黒く蔭り、そのまま二度と晴れることはなかった。 傷まりさが、赤みょんに襲い掛かり、上からその小さな体を踏み潰した。 「ゆっくりしね! ぱちゅりーがしんで、なんでお前がいきてるんだぜぇぇ! おまえもしねっ! れいむのおちびちゃんも、れいむとどうっざいだよ!」 怒りの矛先を失った傷まりさは、限度を知らなかった。 息を荒くして、何度も飛び跳ねる。 周りのゆっくりは誰も止めなかった。 ようやく落ち着きを取り戻した傷まりさは、背を向けて群れのほうへ帰っていった。 群れのゆっくりたちも、それで気が済んだのか引き上げていった。 赤みょんは草の上で小さな白いチョコの染みになっていた。 朝露に溶けて流れてしまうほど、小さな染みだった。 うーぱっくのうーという鳴き声が、林に響いた。 それを聞くものはいなかった。 7 れいむは暗闇の中で目を覚ました。 体が熱っぽくて、だるい。 自分の体ではないみたいだ。 目を開けても視界が明るくならないので、夜なのだと思った。 辺りからはがさごそという音や、人間の話し声が聞こえてくる。 それらの音は妙にくぐもっていた。 れいむは記憶を辿った。 逃げている途中に人間が現れて、れいむは選択を要求した。 人間はそれに応えた。だが、選択をしたのは自分ではなかった気がする……。 そこまで考えて、れいむは自分の身に起こったことを全て思い出した。 群れを追い出されたこと。 れいむ似のおちびちゃんがすべて死んでしまったこと。 みょんに信じられないことを言われたこと。 そして、その後の人間に与えられた、苦痛の数々を。 思わず悲鳴を上げようとした。 だが、いくら声をあげようとしても、全く音が出ない。 いや、自分では叫んでいるつもりなのだが、口が開かない。 目も見えているのに暗いわけではなく、最初から開いていなかった。 どういうことだろう。 自分は人間に火をつけられた後、死んでしまったのだろうか。 死んで、ゆっくりが死後に行くというゆん国に召されたのだろうか。 それにしては様子がおかしい。 真っ暗で何にもない。それに、人間の声が聞こえる。 ゆん国はゆっくりだけの至上のゆっくりプレイスだ。 人間がいていいわけはない。 では、ここはどこなんだ? そこまで考えて、れいむは最悪の想像をした。 まさか、火をつけられた自分は、中枢餡以外全て焼けてしまい、 目も口も開けなくなったままずっと放置されているのでは? 中枢餡だけではものの2、3分しか生きられないが、そのときのれいむにはそんな考えはなかった。 ただ周りの様子がわからない恐怖と、ずっと目も見えず口も利けないまま過ごさなくてはならないという不安に押し潰されそうになっていた。 暗闇の中でれいむは、みょんを呼んだ。 まりさがいなくなって寂しい思いをしていた時、現れてくれたのはみょんだった。 単に長のところにご飯を持ってきただけだったが、それだけでれいむは救われた気がした。 だからみょんが好きだった。 誰よりも、まりさよりも、群れ全部と引き換えにできるほど。 でも、もう遅い。 自分はおそらく死んだのだろう。 みょんも人間に殺されたのだろうか。 燃え盛る火炎の中から見たみょんは、自分から目をそらしていた。 もっとみょんの気持ちを考えてあげればよかった。 自分がゆっくりするだけじゃなくて、みょんといっしょにゆっくりすればよかった。 ひとりじゃゆっくりできないよ。 みょんはずっとひとりだったの? れいむがそばにいても、ひとりだったの? ごめんね。 ごめんね。 いくら謝っても、みょんとはもう会えない。 その事実が、重くのしかかってくる。 もう一度みょんに会いたい。 会えなくても、せめてみょんだけは人間の魔の手を逃れて無事でいて欲しい。 れいむは声にならない声で叫んだ。 「みょん!」 それは、誰よりも自分の好きなれいむが、初めて自分以外の誰かのことを想った瞬間だった。 (れいむ) れいむの頭の中に、声が聞こえた。 「だれ!?」 (れいむ、こわくないみょん) 声はみょんのものだった。 慈愛に満ちた声が暗闇に響き渡った。 それだけで、辺りが明るくなった気がした。 「みょん、どこにいるの!? ごめんね!! れいむはいっぱいひどいことしたよ! まりさもころしたよ! ぱちゅりーもころしたよ! むれのみんなに めいわくをかけたよ! でもしんじてほしいよ! れいむはみょんがすきなんだよ! あいしてるんだよ!」 (れいむ、わかってるみょん。れいむのきもち、ぜんぶつたわってくるみょん) みょんの声は、相変わらず優しかった。 全てを受け入れたように、落ち着いた響きだった。 「みょん! こっちきてね! れいむといっしょにすーりすーりしようね!むーしゃむーしゃしようね! こんどはちゃんと、れいむがじぶんでごはんとってくるよ!」 (れいむ、それはできないみょん) みょんの声音が蔭る。 れいむは叫んだ。 「どぼじでそんなこというのぉぉ!? まだおこってるのぉ?」 (そうじゃないみょん。れいむはもうみょんと いっしょにいるみょん) 「だから、どこなのぉぉ! でてきてねぇぇ!!」 (れいむ、れいむはみょんの からだのなかにいるんだみょん) 「ゆっ?」 れいむは辺りを見回した。 相変わらず真っ暗だった。 れいむはあせりと困惑を顔に浮かべて、無理やり笑う。 「へ、へんなこといわないでね、みょん……おこってるの?」 (そうじゃないみょん。にんげんさんは、みょんにえらばせてくれたんだみょん。 "ちゅうすうあん"だけになったれいむと、ずっと一緒にいるか。ふたりでゆんごくにいくか。 みょんはずっと一緒にいるほうをえらんだんだみょん) 「にんげんさん!? にんげんにつかまったの?」 (にんげんさんは、みょんのあたまにれいむの "ちゅうすうあん"をうめこんだんだみょん) 「なにをいってるのぉぉぉ!」 (わからないなら、みせてあげるみょん) みょんがそう言うと、れいむの目が見えるようになった。 視界が一気に明るくなり、外の光景が目に入ってくる。 そこにはオレンジ色の世界が広がっていた。 ゆらゆらと揺れる前髪が目に貼りつく。 (れいむ、れいむもおんなじ けしきをみているみょん?) みょんは目を開いて、辺りを見回した。 人間のおうちの中のようだった。 視界の端で、人間が寝転んでテレビを見ている。 人間の声だと思ったものは、テレビから流れてくる音声だった。 どうやら、大きな水槽の中にみょんはいるようだった。 水槽の中には、オレンジジュースがたっぷり入っている。 その底の方でみょんはじっとしている。 頭の後ろの方が継ぎ足したように少し膨らんでいた。 水槽に沈んでいるのはみょん一匹だけだった。 みょんが目を動かすと、れいむの視界も一緒に動く。 人間がこちらに気付いて、水槽のガラスを指で叩く。 ゆらゆらと歪んだ姿がれいむの視界に大写しになった。 みょんは開けた目をすぐに閉じた。 辺りが再び暗くなる。 れいむはおぼろげに、何が起こったのか理解した。 たった今見た光景は、みょんの見たものだった。 それを、れいむも見た。 「ゆ……え……? ゆ、ゆふ、じょうだんだよね?」 (れいむ、これでずっと一緒だみょん) みょんの口調には一片の冗談も含まれていなかった。 れいむは絶叫した。 「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃ! やじゃぁぁぁぁぁ!」 (にんげんさんは、ずっとこのままだって いってたみょん) 「やべでぇぇぇぇぇぇぇ! だじでぇぇぇぇぇ!」 (れいむ、みょんは うれしいんだみょん。 さっきのことば、れいむのきもちは、うそじゃないってわかったから。 これなら、れいむの考えてることは ぜんぶみょんにつたわってくるみょん。 もうれいむのことばに なやまされなくていいんだみょん。 たまには、むれのことも おもいだしたりして……) みょんは思い出に浸るように少し体を傾けた。 もうれいむに振り回されることはない。 楽しい記憶ばかりを、ずっと思い出していた。 叫び続けるれいむの意識の中に、みょんの記憶が流れ込んできた。 無理矢理すっきりさせられたときの、痛みと悔しさ。 雨上がりにご飯を運んできた時の、空腹と疲労。 巣の中でひとり、れいむを待っていたときの寂しさと辛さ。 そして、れいむに裏切られた時の絶望と苦しみ。 それらが全て、れいむの頭の中で混ざって弾ける。 みょんが幸せな記憶に浸っている間、れいむはずっと苦しみ続ける。 辛い記憶ばかりが、なぜかれいむに吸い寄せられるようだった。 壊れたシーソーのように、もうれいむが浮かびあがることはない。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! だずげでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 れいむの上げた悲鳴は誰にも届くことなく闇の中へ消えていった。 部屋には、変わった様子はない。 全てはれいむが目を覚ましてから、ほんの数分間のことだった。 水槽の中で目を閉じたみょんの口元が、わずかに微笑んだ。
https://w.atwiki.jp/kimokoe/pages/353.html
【終】声がキモくてしゃべるのが下手な俺と一緒にラジオ もうネトラジはニコ生に食われてるよ この前の糞虫のリスナー数も如実に少なくなってたし 年度末の二三日を使って最後の大団円をして終わりにしない? 参加予定DJさんは名前書いていってね ここに名前を書くといいよ! [時間] [----DJ----] [----リスナーからの希望----] [DJ許可] 00 00 01 00 02 00 03 00 04 00 05 00 06 00 07 00 08 00 09 00 10 00 11 00 12 00 13 00 14 00 15 00 16 00 17 00 18 00 19 00 20 00 21 00 22 00 23 00 日付:年度末 案1:いつも通り24時間リレー 案2:なにか企画 何か意見があれば避難所企画スレもしくは下のコメント欄まで やりたい・聞きたい企画がある人は下のコメントへ ============ 全 体 企 画 ============ =========== 指 名 企 画 ============ ここに企画を書くといいよ! 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/7090.html
このページはこちらに移転しました 俺と一緒に死んでくれ 作詞/271スレ358 氏ね死ね士ね死ね士ね死ね士ね氏ね死ね つーか死にたい 健康でご飯食べれてお風呂は入れて清潔で ものすごく恵まれた世界にいますhが つーか死にたい だから一緒に死んでくれ だから一緒に死んでくれ 一人じゃ寂しいから一緒に死んでくれ 氏ね氏ね死ね士ね死ね士ね死ね士ね死ね士ね市ね